5話 闇使いの少年(3)

  おれとサラはハンナ母さんの前で魔法を使ったことにより家族会議となった。

  そして、サラはハンナ母さんと、おれはカイル父さんと話すこととなった。


  おれについては今まで魔法を使えることを黙っていたことだろう。

  そして、サラについてはおそらく弟であるおれに魔法を撃ったことだろう。


  怒られることに怯えるサラの不安を取り除いたおれはカイル父さんと向かい合い、少しの不安と少しの好奇心を持って構えることにしたのだ。


  「アベル、きみが魔法を使えるなんて父さんも母さんも知らなかった……。すごいな流石セアラの弟といったところか」


  カイル父さんはこう言っているが本心ではないだろう。

  カイル父さんは魔法使いである自分たちの息子だからとか、天才の姉さんの弟だからという理由でおれの魔法資質をすごいと考えるような人ではないはずだ。


  長年——といってもたった数年だが、カイル父さんと暮らしてきたおれはそう思っている。

  肩書きや血統ではなく努力や実力で他人を評価する人格者であるカイル父さんがこんなことを本音で言っているはずがない。


  それにおれの魔法を見たときのハンナ母さんの様子。

  あれは異常としか言えない。

  おれがサラの魔法を受けて生きていた喜びではなく何かへの恐怖のように感じられた。


  「父さん、質問に答える前に一つ。サラや母さんを外したのはなぜですか? もしも本心で話して欲しいという意図があるのでしたらぼく自身も父さんにはそうしてもらいたいものです」


  カイル父さんは目を開いて驚く。

  そして、少し笑いながら答える。


  「アベル、きみは本当に賢い。そしてとても優秀だと思う。わたしはたまにそれがとても怖く感じるのだ。わたしやハンナには理解できないそして到達できない頂きへと登りつめ、そして……」


  カイル父さんは何かに思いふけったかのように話し始めた。


  カイル父さんはこう言ってくれるがおれは別に自分のことを優秀だとは思わない。

  前世でだって勉強なんて全く理解できなかったし、やってこなかった。


  実力者であり人格者、そして努力家のカイル父さんにそんな言葉をもらうのを少しおこがましく感じた。


  「すまない、話が逸れてしまったね。わたし自身も本音で話そう。そして教えてほしい。そうだな、まずは……いつからアベルは魔法を使えるようになったんだ?」


  こうしてカイル父さんと真面目に話すのは今思えば初めてかもしれない。


  おれは素直に話すことした。

  但し、サラがカイル父さんたちに隠れておれに魔法を見せてくれたことは黙っておくことにした。


  「実は物心ついたときから魔法を使えそうな気はしてたんだ。うまく言えないけれど、魔力を感じてそれを操作できたんだ」


  「だけど実際に初めて魔法を使ったのは半年くらい前だったと思う。上手く魔法が使えたってこともあって一人で練習したりサラと練習したりしたんだ」


  カイル父さんはおれのことをジッと見つめる。


  前世で対人関係が苦手だった頃の癖だろうか。

  おれはカイル父さんのことを見れずに目をそらしてしまった。


  サラが昔に父さんたちとの約束を破ったことを隠している罪悪感のようなものなのかもしれない。


  「魔力を感じて操作できそうか……。アベル、きみのことは信じている。だから本当のことを答えて欲しい。実際に魔法を使ったのは半年前が初めてなのかい?」


  「うん。そうだよ」


  「そうか……。では、どうして今まで魔法を使えると思っていても使わなかった君がそのとき魔法を使おうと思ったんだい?」


  「えっと……それは……」


  おれは一番聞かれたくないことを聞かれている。


  おれは先程、カイル父さんたちにサラへの愛情について確認したがそんなことをする必要はなかった気がする。

  それは、おれはカイル父さんたちのサラへの愛は何があっても変わらないものだと確信していたからだ。


  5年近く一緒に暮らしてきたおれにはわかる。

  前世で亡くしたおれの両親のように深い愛情を持って育ててくれる人たちなのだから。


  だからこそ、ここは素直に話すか。


  「怒らないで欲しいんだけど、サラと二人で遊んでいるときにサラの魔法が暴発して……それを止めるために……」


  「なに!?」


  カイル父さんは少し驚いた声をあげる。

  おれはビクリと身体を震わせてしまった。


  「すまない……。セアラが魔法に関しての約束を破るとは思わなかったんだ。だがアベルが言うのならばそうなのだろうね。話を遮ってしまって悪かった、続けてくれ」


  サラは両親が大好きだからな。

  二人との約束を破ることは基本的にない。


  彼女が二人に怒られるのは大抵おれをいじめているときか食べ物を残すときくらいだ。

  おれはサラがカイル父さんたちとした約束を破って怒られているのを見たことはない。


  「うん。えっと最初にサラが魔法を見せてくれたんだけどね。その魔法が暴走しちゃって……それでそれを止めるために初めて使ったんだ!」


  「だけどサラを怒らないで欲しいんだ。そのことについてサラはもうちゃんと反省したから!」


  「はぁ……。わかったよ、セアラを怒ることはしない。しかし、アベル本当にきみは4歳なのか? 既に15歳くらいの感じがするぞ。一体何者なんだか」


  カイル父さんは半笑いでそう言った。

  確かに自分でも4歳の発言とは思えないな。


  いや、それでも15歳なの!?

  前世と年齢を合わせれば20歳ハタチを超えてるのにな。

  おれは少し複雑な気持ちになる。


  「それでだな。ハンナが言うにはアベルの魔法は闇属性のようだったと……それは本当なのかい?」


  正直、自分は魔法の属性などよくわからない。

  魔法には大きく二種類に分けて考えるらしい。

  攻撃魔法と攻撃魔法以外の魔法だ。

  うん、当たり前の分類だよな。


  世の中には二種類の果物が存在する。

  メロンとメロン以外の果物だ。

  これくらい当たり前のことを言っている。


  ちなみにカイル父さんやハンナ母さんは魔法についておれに教えてくれないので、このことはサラが教えてくれた。

  絶対にもっと細かい分類があるはずだが、子どものサラにわかりやすく説明するためにカイル父さんたちがそう伝えたのだろう。


  攻撃魔法にはサラが使っているような火球ファイヤーボールなどがあり、攻撃魔法以外の魔法には治癒術師であるハンナ母さんが使う回復魔法などがある。


  そして、攻撃魔法には属性というものが存在するらしい。

  サラの使う火球ファイヤーボールで言えば火属性といった感じだ。


  これに対して攻撃魔法以外には属性は存在しない。

  確かに火属性の回復魔法とか想像がつかないもんな。


  そして、カイル父さんはハンナ母さんが見たおれの魔法は闇属性の魔法ではないかと言った。

  闇属性という属性があること自体おれは初めて聞いた。

  サラに教えてもらった属性は火・水・風・土の4属性だけだからだ。


  だがおれが使った結界魔法(自分で名付けた)は攻撃魔法ではないと思う。

  だとしたら属性は存在しないのではないか。

  それとも攻撃魔法として敵にダメージを与えるようなこともできるのか?

  考えがまとまらないでいるとカイル父さんが話を続けた。


  「もしも今使えるのだとしたら見せてくれないだろうか?」


  確かにおれにはわからないが高等魔術学校出身のエリート魔法使いであるカイル父さんに見てもらえば何かわかるかもしれない。

  おれはカイル父さんに魔法を見てもらうことにした。

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