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殺人探偵。
多種多様な顔を、文字通り物理的な意味で戸籍ごと使い分ける非合法の探偵。
探偵に合法も非合法も無いだろうと言うだろうが、あえて非合法と言わせて貰う。
この探偵、実のところ出自、年齢、性別。その全てが謎に包まれた存在なき人なのである。便宜上、彼の殺人探偵の事は『彼』と呼ばせてもらう。
深い意味は無い。強いて言えば、あの殺人探偵はだいたい〝男〟の姿で現れるし、戸籍も〝男〟のものを多用しているからだ。
さて、『彼』を語るには、なぜ『彼』が〝殺人探偵〟と呼ばれているのかについて、その所以を明かそう。
まず、『彼』は非常に優秀な探偵だ。数ある難事件の中でも、既に迷宮入りした事件から、立証不可能と言われた犯罪の立証を成功させた稀代の天才とも呼べる頭脳を持った、優秀な探偵だ。
いっそ、規格外と言えるほどに。
しかし、『彼』は事件をただでは終わらせない。『彼』は、ある共通の細工を施し、事件を終息させるのだ。
その方法こそ、『彼』が殺人探偵と呼ばれる所以。
『彼』は表向き、巧みな言葉遣いで事件の真相を解き明かし、最後の最後で答えを明かさずに当事者であり、傍観者である我らに答えの意義を問う。
それは、まるでクイズをしかけるゲームマスターのような振る舞いだ。
正解の一歩手前まで解き明かしておいて、その先の答えを我々に考えさせ、その正解が本当に正しいのかどうかの意義を問いかけてくるのだ。
勿論、正解の一歩手前まで解き明かされた時点で、その先の正解など容易に予想がつく。しかし、時には無数の可能性を考慮すべきではないかと、自分自身に改めて問いかけさせるのだ。
疑心暗鬼に陥る一歩手前の、自らの答えを疑う状態まで追い込む。『彼』はその様を、まるでテストの様子を窺う教師の如く、楽しんだ眼で眺めるのだ。
例えるなら、最後まで自信を持って解き明かした答案用紙に書いた答えが、本当に合っているのか?とついつい無駄な思考に陥ってしまう事があるだろう。
何度も、答えを確認したくなるだろう。
我々の思考は、まさにそれに似ている。
まあ、ぶっちゃけてしまえば、そんな事などどうでもいい。
本当に大切なのは、また別の所にあるのだ。
それは、ある二つの存在に焦点を当てた場合に、浮き彫りになってくるもの。
それは、犯人と被害者の存在だ。これは、事件が起こった以上、絶対に回避できない事象とも概念とも呼べるものである。
犯人の存在があれば、当然、犯人の起こした事件の被害を受けた被害者の存在はあって然るべきだろう。
いや、この言い方だと被害者がいない事件があると言ってしまう事になるが、多くの場合、人は事件が起こった時に被害者の中でも〝人以外のもの〟の存在を、無意識に思考から外してしまう事がある。
それは正しくない。事件が起こった事で、誰も住まなくなった事件現場の家なども、立派な被害者だ。
まあ、これは人によって定義づけが異なるので、何とも言えないが。
ああ、本題から外れてしまった。さて、結論を言おう。
もし、事件の犯人に害された〝被害者〟が、元凶たる〝犯人〟に向かって事件を起こした場合……その事件が、実際に起こったとした場合、それは最悪の事態と言えるのではないか。
『彼』は、殺人探偵と呼ばれるに至った経緯は、後にも先にも〝あの殺人事件〟がきっかけだろう。
とある家族の生き残りが、自分の家族を殺した犯人に対し、復讐をする。
事件を起こした犯人に対し、被害者たる存在が〝私刑〟を執行する。
結果的に、被害者の家族を殺した犯人がどんな末路を迎えたのかは、言うまでもないだろう。
………『彼』は探偵として被害者に事件の顛末を報告し終わった後に、決まってこう言うのだ。
「これで仲良く大団円。事件解決だ」
どこがと言いたい。考え得る限り最悪の結末ばかりだ。未然に防ぐべき更なる犯罪を、如何なる方法を使ってか、『彼』はさながら地雷の如く誘発させる。
それは、更なる被害者を誕生させる事に他ならない。
被害者、『彼』の獲物たる大好物の恰好の的が。
思えば、探偵である『彼』に事件として関わった者、その全員が被害者なのだろう。
外ならぬ、『彼』の担当警察官たる、この私も。
(ΦωΦ)暇つぶしに書いた短編よん
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