差しのべられた手を握ると目の前は

闇野ゆかい

第1話差しのべられた手

廊下から嫌な笑いが聞こえる。

「あいつ、ウザいよね。明日どうする?」

「あははっ、もっと泣かせたくない?」

「いいねぇ。ウケるぅ」

床で泣き崩れる少女の全身が濡れている。ぽたぽた水滴が滴り落ちる。

笑い声は遠ざかる。


私はウザいの、私の何が気に食わないの、私がいつあんた達に危害なんて加えた。ただ、静かに生きているだけなのに。


私だけがこんな目にあわなきゃいけないのっ!


なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで──


「風邪引くよ。私の体操服を着て、サイズ合うかわかんないけど」


目の前から、静かで心地好い声が少女の耳に届く。

少女は俯いていた顔をあげる。目の前には、今まで見て見ぬふりをして、助けてくれなかった少女がいた。

片手に体操服を持って、もう片方の手を差し出していた。

「なん......で、いまご、ろ......なの」

「そう......だよね、そう思う......よね。今までごめん、緋菜芽さん。忘れ物を取りに戻ったら、緋菜芽さんが泣き崩れてたから、助けないと──」

「謝るんなら何で最初にいじめられてたときにとめにはいってくれなかったのっ!」

少女は今までの思いの丈を叫ぶ。

本当は目の前の彼女のことを理解している。助けられなかった理由を。

少女が彼女の立場であれば、同じように傍観している。関わり合えば次の標的は自分になるのだから。

それをわかっていながら、少女は想いを彼女にぶつける。


彼女は、少女を抱き締め続ける。泣き止むまで。

少女が泣き止むのを見届け、立ち上がる彼女。


「──一緒に立ち向かおう。そして、水色に染まる景色を羽ばたこうよ。緋菜芽さんっ!」

彼女が、手を差しのべながら、高らかにそんな言葉を発した。

少女は、差しのべられた手を握り、ゆっくり立ち上がる。


一色緋菜芽、白旗翼しらきつばさは強い想いを抱く。

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差しのべられた手を握ると目の前は 闇野ゆかい @kouyann

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