第9話 二次災害?

「ひゃあああああああああああああああああああああああああ助けて助けて助けて助けて助けてくださいおねがいしますううううううううううううううううううううううっっっっ!!」


「なにもしないなにもしない! だから落ち着いてええええええええええええええっ!」


 肩を揺さぶられて、――へ? とまぬけな声を出した鴎は、目の前を覆う少女を見つける。


 同じ制服――ここの、生徒。


 同じ学年でないことは、『見たことがない』という理由だけで判断していた。


 なんであれ、鴎を支配していた恐怖は、先輩のひとりが姿を現したことで、消えていた。



 桃色のショートヘアーの少女、月森相楽は、はあ、と溜息を吐き、


「あんまり叫ぶと大事がさらに大事になるから勘弁してください!」


 もう、遅過ぎる注意だったが、

 だが、もう遅いという事実を知らない相楽にとっては、関係なかった。

 はえ、と再びまぬけな顔を晒す鴎に、不覚にもどきっとしてしまう相楽は、

 胸に手を当て、衝動を抑える。

 同性に『あれ』とか、いやいや――と。


 想像の拘束から抜け出してから、相楽は鴎の体を支えてあげた。

 中途半端な体勢のまま固まってしまったらしく、上手く動けないらしい。


 力づくで立ち上がらせてから、少しだけ、数分だけ、時間を置いてから、

 どうしたの? と目線を合わせて聞いてみた。


「あうう、えっと……」


 茶色の髪の毛は、長く、お腹辺りまで伸びている。

 手入れが行き届いている長髪は綺麗で、気品があった。

 もしかしたらどこかのお嬢様なのかもしれない――と、

 勝手に予想をしながら、相楽は相手の返答を待つ。


 が、どうやらあまり強気な方ではないらしい。


 それは、まあ、予想通りではあったが。


 顔を真っ赤にさせながら、俯いてしまった鴎の頭を、ぽんっと、優しく叩いてから。


「もしかして、なにか忘れ物?」


 鴎は、こくんこくんと力強く頷く。

 どうやら正解だったらしい。


 忘れ物……、ならば相楽が動いたところで、事態が悪い方向に転がることはないだろう。

 そう思ってから判断し、相楽は鴎の手を掴む――、

 引っ張って、一年生の教室へ向かおうとした。


 すると、


「い、いくんですか? ……でも、悪い、です」


「気にしない気にしない。別に、大した手間じゃないんだからさ」


「……はい」


 ぎゅっと、鴎の方からも相楽の手を握ってくる。

 信頼関係は上手く構築できているらしい。

 ただのつり橋効果かもしれなかったが、そんなことはどっちでもよかった。


 状態がどうあれ、こうして出会って、繋がりが出来たのだから、

 これから先、切断されたところで、再び繋がることはできるだろう。


 繋がったのだから――、

 二度と繋がらないことなど、ない。


「わたしは相楽――あなたは?」

「深作、鴎、です」


「そっかー、鴎かあ……よろしく」

「はい……!」


 真っ暗な校舎の中――、手を繋いで歩く二人は、笑顔だった。

 いま、校舎の外では大勢の人たちが混乱しているというのに、それも知らず。


 そして、ついでに言えば、学校の問題には関係ない、

 パトカーのサイレン音も聞いていながら、無視して。


 受け入れることもないまま、

 そのまま一年生の教室に辿り着き、扉を大げさに開けた。



 一歩、踏み出し、部屋に入れば、


 相楽のおでこに、突きつけられた拳銃――銃口。


 相楽は言葉が出なかった。



 鴎も同じく――、腰が抜けて、しりもちをついてしまう。


 相楽の全身から冷や汗が出る。


 しかし、彼女はこの状況で命の危険を考えてはいなかった。

 この拳銃だって偽物で、どうせ自分を脅かすための道具なのだろう。

 この、全身を黒く、仮面で顔を隠している二人の男だって、

 犯罪者などではなく、ただのお手伝いさんなのだろう――と。


「貴様ら、動くな。手を上げて、こっちにこい」


 指示に従いながら、言われた通りに近づいていく相楽――そして鴎。


 泣きそう、というか、既に泣いている鴎を言葉で安心させながら、


 内心で、相楽は思う。



(やりすぎだよ、宝ぁあああああああああああああああああああああああ!)

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