第2話 俺と愛犬の関係

俺はその日学校を休んだ。

なぜならば可愛い愛犬に脅されたからだ。


今日は学校を休め、従わなかったらその喉を掻っ切る。


すっかり顔から血の気が引いていたので、母さんも難なく休みを許可してくれた。

父さんは出張で俺の起きる前には出かけていて、母さんはまもなくパートに行ってしまった。


この家にはメランと俺だけしかいなくなった。


「メランを今から言うドッグランに連れて行け。ナビしてやるから、道間違えんなよ、このオタンコナス」


俺の可愛いメランが、はっきりと、俺に向かって、俺を蔑称した。


「ちょっと待て!メランはそんな風に俺の事を呼ばない!お前本当にあの可愛いメランか?誰か悪い奴に身体を乗っ取られたんじゃないのか」


違う、違う。こんなのメランじゃない。

確信を込めて、勇気を出して言葉を返した俺にメランは悪女のように高らかに笑った。


「全く…お前、今日までメランと話したことがあったか?それは全部お前の想像の類だ。第一、最下層のお前がこのメランにタメ口である事が元々気に入らなかったんだ。お前なんかまともに呼んでやるものか」


お前の事を、お兄ちゃんなんて一度だって呼んだことはないぞ。


メランはそう吐き捨てた。


俺はショックで膝から崩れ落ちる。メランの言った通り、飼い主は自分のペットがどんな風に話すのかなんて表情や仕草で自分達なりに解釈しているだけである。実際はワンとかクーンとかしか鳴かない。


「ついでに改めて確認するが我が家のヒエラルキーの最下層はお前だからな。1番上はママ、次はパパ、メラン、そしてお前だ」


「…ヒエラルキー?」


「階級のことだ、犬は縦社会だからな。偉さの順番は重要なんだ」


「…つまり、俺はメランより下ってこと?」


恐る恐る確認すると、メランは尻尾をブンブン振り回した。


「そう言うことだ。理解が早いな、イカレポンチ」


聞いて、俺は100%理解した訳ではないが、お利口で我が家の可愛いお姫様は、実は口が悪くてワガママで傲慢なお姫様だった、と自分なりに噛み砕く事が精一杯だった。


「では、早速メランをドッグランに連れて行け」


俺は戸惑いを見せつつも、玄関に掛けてあるメランの胴輪を手に取り、この傲慢なお姫様に装着した。リードを金具につけて1歩玄関を踏み出ると、メランは再び俺を蔑称した。


「おい、アバズレ」


違う、背後から罵る声はメランではない。俺の可愛いお姫様ではない。そう思いたかったが、振り返るとメランはパタパタと尻尾を振って、いつものつぶらな瞳で俺を見ていた。


「抱っこして、連れて行け」


俺は素直に跪いて、お姫様を優しく、優しく抱き上げた。

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