メランポジウムなトイプードル

Oniwalanshu

第1話 真っ黄色なトイプードル の性格

ある日、母さんがペットショップで生後2ヶ月のトイプードルの女の子を飼ってきた。毛色は真っ黄色でこんな毛質の仔は同犬種にいないとの事で、「欠点あり」として安く販売されていたらしい。

母さんは、同情心に煽られ即日購入し、我が家に突然小さな家族が増えた。

ぴょんぴょんと跳ねたり、スヤスヤ寝ている姿は年頃の高校生の俺でも悶絶するほど可愛く、3日も経たずこの仔は我が家のアイドルになった。


名前は、母さんに「メラン」と名付けられた。フルネームは「メランポジウム」

聞き慣れない名前で繰り返し呼び続けると、やがて元気に駆け寄ってくるようになり、1日も経たずこの可愛い生き物は自分の名前を習得した。

どうやら、トイプードルは賢い犬種のようで、芸達者にもなれる犬種故に何を教えるにも苦労はしなかった。


そんなお利口で可愛いメランがもうすぐ1歳になる頃に事件は起こった。


「メランちゃん、お兄ちゃん起こしてきて。全くいつまでたってもお寝坊さんなの」


俺の朝のぐずぐずは社会人になったら改善されるだろうか。いつまでも布団から出れずにうずくまっていると、階段をチャカチャカ駆け上がってくる音が俺の耳に響いた。


メランが家に来てから、朝の目覚めがとても幸せなひと時になった。以前は、母さんに小言を言われながら雑に布団を剥がされ、カーテンを開けられ、朝の日差しをこれでもかと浴びせられていた。


メランは違う。少し隙間が作ってあるドアを鼻で器用に開けて、ぴょんとベッドに飛び乗ると、布団の中で丸まっている俺の耳元に鼻を近づけて起こしに来てくれるのだ。ちょっと体を動かすと、その隙間を狙って鼻を押し込み、ペロペロと俺の顔を舐める。

お兄ちゃん、早く起きて、遅刻しちゃうよ、と可愛く囁かれているようで思わず笑みが溢れてしまうのだ。

今日もメランがベッドに飛び乗り、同じように布団の中へ侵入してくる。

俺は心の中で思う。あぁ、可愛い俺の姫よ。朝1番に会うのが君で本当に良かった。


「いつまで寝てんだよ、このタコ。早く起きろ」


確かに聞こえて、俺は目を見開いた。バッと勢いよく上体を起こして振り返る。

そこにはいつもと変わらないメランがちょこんとお座りしているだけで、周りには誰もいない。


空耳か?

確かに耳元で誰かがそう言ったのだ。


「今日は目覚めがいいな。上出来、上出来」


俺の心臓は止まった。先ほどと同じ、この声の元はメランの方から聞こえたのだ。

そのメランは自身の耳元を後ろ足でせっせと掻いている。


そして、メランはまた喋った。


「じゃ、先に下で待ってるから。お前も早く来いよ」


確かにそう言って、メランはベッドから飛び降りて部屋から出て行った。


俺は思考が追いつかず、後ろ髪を引かれる思いで代わりにその原因の元の後を追った。

プリプリとお尻を揺らしながら、階段を降りるブランはまたブツブツと喋っていた。


全く、この階段は幅が本当に狭い。腰にクルったらありゃしない。


俺は息を飲んだ。メランが喋っている。


「…メラン?」


俺は疑心暗鬼に陥りながら、階段の上からメランを呼んだ。


「どうしたー?アサダチが直らないのかー?トイレでも行って早くヌいて来い、遅刻するぞ」


確かに、俺の可愛いメランが、俺の理解する言葉で、この上ない下世話な事を喋った。


信じられるわけがなかった。仮に喋ったとしても俺の可愛いメランはそんな下品な事は言わない。


俺は自分の頭が一時的におかしくなっただけだと思い、自身をごまかすように朝のルーティンに取り掛かった。

顔を洗い、歯を磨き、制服に着替えて、食卓の席に着いた。

けれども、トーストパンをかじってる最中も俺の幻聴は止まらなかった。


メランは母さんから、俺を起こしたご褒美にいつもおやつをもらっている。もらうまでは、尻尾をフリフリと振って、お行儀よく座り、芸をするいつもと変わらないメランだったが、「本日のおやつ」を目にするとボソッと呟いていた。


なんだよ、煮干しかよ。シケてんなー。


文句を言いながらも、パクッとそれを口にするメランに、俺は開いた口が塞がらない。


母さんのご褒美タイムが終わると、次にメランは俺のところにやってくる。


「人間の食べ物はあげないでね。何回も言ってるでしょ」


俺はいつも一番端っこの、何も味付けされていないミミの部分を少しちぎってあげるので、母さんのお決まりのセリフは今日も健在だった。


大丈夫、おかしいのは俺の頭だけだ。いつもと変わらない母さんは、逆に俺を安心させた。


「早くよこせ。チンタラしてんなよ」


その言葉ははっきりと耳から脳に伝わり、俺は堪らず慌てて立ち上がった。


「どうしたの?顔色悪いわね、大丈夫なの?」


母さんは唖然とし、驚いて俺の方を見ていた。


「俺…もう行くわ」


俺は冷汗を垂らしながら、すぐに身支度を整えた。床に置いたスクールバッグを拾い上げて、メランから逃げるように玄関へ向かった。


「おい、ちょっと待て」


言われて、俺はつい足が止まってしまった。

振り返ると、可愛い俺のメランは首を傾げて俺を見つめていた。

そして、メランは俺に向かってまた発言したのだ。


「お前、メランが言ったことがわかるのか」


俺は怖気付いた様子で、ただ首を縦に振った。

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