第20話 赤い死神は御前作戦会議で北都を電撃急襲する案を提案しました

その日アレクは宮殿に呼び出されていた。

会議室に入ると既にマクシム・ボロゾドフ第一王子らが席についていた。

中にいるのはマクシムの第2師団、第五王子ダニールの第4師団、そしてアレクの第8師団の面々だった。

そこへ皇帝が来場する。

全員立上った。

礼をする中、皇帝が中央の一段高い位置に着座する。


「皆のもの、大儀であるな」

その言葉で全員着座した。

「マクシム。始めるが良い」

皇帝の合図に中央に巨大な地図を広げる。


「それでは失礼して私からお話させて頂きます」

第2師団の副官で公爵嫡男のマラート・ アバーエフが指揮棒を持って話しだした。

「今回、第2師団、第4師団、第8師団の帝国最強の3師団をもって一気にマーマレードを突きます」

「な、何と」

「マーマレードを突くのか」

アレクは驚いて言った。ここからマーマレードの北まで2千キロくらいある。移動は大変だった。

一同驚いた。


「皆様驚きのことと思われます。ここからマーマレードの北まで移動するのは大変だと」

アラートの言葉に一同頷いた。

「幸い、季節は夏です。我らの先遣部隊の海軍が北極海のルートを開拓しつつあります」

「何とあの氷の中を突き進むのか」

驚いてダニールが言った。

「元々、北極海の氷は夏場は溶けるのだ。

昨年も海岸沿いで陸地との間から海が見えたところは所々ありました。今回は装甲船で氷の弱いところを砕氷すると同時に、第2師団を中心とした魔導師を配備。最低限幅100メートルの航路を開拓するのに成功したのです」

「なるほど、そのルートを使えば高速船で、兵士を迅速に運べるというわけですな」

ダニールは納得した。

「はい。この帝都モズの北100キロのところから川を高速船にて北上、北のマーマレードとの国境の町パルチラの北120キロまで船で2日で運びます。往復4日。3往復で全3個師団を運びきります。この最新のルートを使えば、2週間強でパルチラの街に全3軍集結できます。

マーマレードの戦力の整う前に北方の街のザレを制圧、同時に帝都から戦力の増強を続け、最大10個師団を持って一気にマーマレードの王都を制圧いたします」

「なるほど、マーマレードの準備の整う前に一気に叩くということですな」

ダニール王子は頷いた。

「そうだ。今回の作戦の肝は電撃作戦にある。アレクサンドルの第8師団は明日、北上を開始、4日後にはダニールの第4師団も北上を私も8日後には北上を開始する」

マクシムが言った。


「補給物資はどうなっているのです」

アレクが聞いた。

「既に3個師団の1ヶ月分の補給物資はパルチラに集積している。パルチらの北100キロの地点にもう3ヶ月分」

「なるほど、攻撃は全軍揃ってからされるのですか」

アレクが聞く。

「基本はそう考えておりますが」

「しかし、奇襲するとなるとパルチらの街に大軍の集結を待っていては気づかれる恐れもあると思いますが」

アレクは一同を見渡した。


「我が第8師団がパルチラ集結と同時にマーマレード北方師団の駐屯地を奇襲殲滅します。そのまま一気にノザレを占拠したいと思われますが」

「1個師団でやるというのか」

「はい。先は王都マーレまで、長いですが、ノザレまでは電撃と言われるなら一気呵成にやってしまいたいと思います」

マクシムの言葉にアレクが頷いた。


「さすがアレクサンドロ。良かろう、やってみろ」

皇帝が言い放った。

「御意」

アレクは頭を下げた。


「しかし、マクシム。ダレルは惜しいことをしたな」

「あの、ジャンヌの小娘が慈悲で制圧したというあれですか」

皇帝の言葉にマクシムは全く応えていないという顔で聞いた。


「まあ、ダレルへの道など、所詮脇道です。その工作が失敗してしばらく我がノルディン帝国の侵攻が遅くなったと彼奴らは考えておりましょう。そこに襲いかかられれば元も子もありますまい」

「そうじゃな。今回の作戦がうまく行けば、ドラフォードの小倅が慌てるさまが思い浮かべられるわ」

機嫌良さそうに皇帝は高笑いした。

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