第13話 ダレル伯爵はクリスに降伏しました

シャラザールは焦っていた。クリスを乗っ取れないばかりかクリスの外にも出られなくなったのだ。

これじゃあまるでクリスに封印されたみたいだった。

暴れるシャラザールを無視してというか理解せずにクリスはパーサの所に向かった。


「パーサ様。緊急事態です」

グリフィズは慌ててパーサの部屋をノックした。

「どうしたのですか」

慌ててパーサが部屋を開けた。


「あなたは、クリスティーナ様」

グリフィズの後ろのクリスを見てパーサは驚いた。

王宮の夜会等で何度かクリストは話したことがあった。

でも、何故クリスがここにいるのかパーサには理解できなかった。


「すいません。パーサ様。非常事態なんです。すぐに伯爵をここに呼んで下さい。

でないとこの城自体が爆破炎上する可能性があります」

いきなりクリスが大上段からパーサに言った。


「えっそんな」

「急いで下さい。少しの遅れが伯爵家の破滅に繋がります」

きっとしてクリスが言った。


「そこのあなた。すぐに父を連れてきて」

パーサはグリフィズに言った。

「しかし、自分はクリス様のお側を離れられません」

「ジャルカ様がいるから大丈夫よ」

後ろからおっちらおっちらやって来たジャルカを見てクリスが言った。


「了解しました」

グリフィズは慌てて駆け出す。


「どういうことですの。クリス様」

「大賢者ジャルカ様はご存知ね」

パーサの問いにクリスが聞く。

「ええ、お名前だけは」

「ジャルカ様。伯爵家の容疑をお話して」

クリスが言う。

「宜しいのですか」

「良いのです」

躊躇するジャルカにクリスが言い切った。


「基本は反逆罪です。ノルディン帝国の残虐王子と手を結んでいらっしゃいます」

「そんなありえないわ」

パーサが信じられないという顔をする。

「具体的には」

「旅人を捕まえて奴隷としてノルデインに輸出。公金を横領して武器の備蓄。

及び、ノルディン軍が侵攻しやすいように、山岳道の拡幅。

領民への過酷な増税で逃散の発生。その税の一部をノルディンに送っています」


「そんな、1つでも伯爵位剥奪よ。その上反逆罪は一族郎党処刑よ」

真っ青になってパーサは言った。


「クリスティーナ・ミハイル様。そのような事を私が認めるとでも」

後ろから突然現れたダレル伯爵が言った。

「伯爵。もう今は交渉している時間がないのです」

クリスが言う。

「そうですな。クリス様こそ袋のネズミですが」

伯爵は後ろの兵士たちに合図した。

「伯爵。あなたは馬鹿ですか。ジャルカ様」

クリスの合図にジャルカが衝撃魔法を使って後ろの兵士を弾き飛ばして地面に押さえつけていた。


「な、まさか」

「歯を食いしばりなさい。伯爵」

そう言うとクリスは拳で唖然としている伯爵を殴り倒していた。


「いいかげんにしなさい。今にもお姉さまが突入しようとしているのよ。私が何とか丸く収めようとしているのが判らないの。全員、この城ごと燃やされたいの」

クリスは叫んでいた。

「しかし、反逆は一族郎党処刑だろ」

伯爵が叫んでいた。


「うるさいわね。それを何とかするって言っているでしょ。

あなた達はこのマーマレードの大切な大切な民なのよ。戦神シャラザールがこの地に降り立たれて千年。シャラザール様なら必ず、あなた方を許されたわ」

クリスが涙ながらに訴えた。


(いや、絶対に許しはしないぞ!!)

(そうですぞ。一族郎党まとめて城ごと火炎魔術で火炙りでした)

シャラザールとジャルカが言い合うが、クリスらには聞こえなかった。


「しかし、横領に奴隷販売、挙句の果てはその金をノルデインに流していたのですよ」

「あなたはこの領民の幸せを祈ったのでしょう。伯爵。このままではノルディンの残虐王子に蹂躙されると。そう思わせた、私達王族の責任もあるわ」

クリスが、皇太子の婚約者で過ぎないクリスが言い切る。


「ノルディンの残虐王子の圧力はすごかったと思うわ。私でも何も知らなかったら怖くてノルディンに寝返ったかもしれないわ」

クリスは一同の顔を見渡した。

「でもね、伯爵。確かに残虐王の力は強大よ。ただし、知られていないけど、私の隣にいらっしゃる大賢者ジャルカ様はあの残虐王子とやりあっても互角の勝負をするはずよ」

驚愕の視線でジャルカはクリスを見た。


いや、絶対にあの残虐王子なんかとやりたくないとジャルカは常々思っていた。確かに魔術の戦いになれば互角かもしれないがあの陰険残虐王子とやりあって5体満足に残れるわけはないと。


「そうよね。グリフィズ」

クリスは伯爵を連れてきたグリフィズに尋ねた。


「はい。実際にやり合われたことはありませんが、ジャルカ様は現在生存している魔導師の中では最強だと思います。おそらく残虐王子と一対一でやり会えば良い勝負をされるかと」

「クリス様。いくら何でも、私を人身御供のように残虐王子に対戦させるのは……」

「あなた何言っているの。今回私を囮の餌にしておいて何か言うことがあるの?」

ジャルカは怒りに燃えるオーラを漂わせるクリスを初めて見た。シャラザールと合体したことによりそのオーラが空間を歪めている。

これは絶対に逆らってはいけないオーラだ。

ジャルカは沈黙した。


「残虐王子はそれでなんとかなるわ」

ジャルカが黙った事でクリスは続ける。

ジャルカは残虐王子の相手を一人でやらなければならないことになった時の絶望感を味わっていた。

残虐王子はそんな名前がつくだけあって、いろんな卑怯な手を出してくるはずだ。もし戦っても無事に済む保証がなかった。

いや、まて、シャラザールがいる。絶対にシャラザールに対処してもらおうと、ジャルカはすぐにどうすればシャラザールとクリスを分けられるか研究することにした。

もうジャルカの頭の中にはゼウスのことなんて1欠片も残っていなかった。


「それに暴風王女と恐れられるお姉さまの部隊は赤い死神と互角よ。これでノルディンと互角に戦えるのが判ったでしょ。あなた方がこの砦を守りきってくれたら絶対にノルディンの侵攻は許さないわ」


「しかし、クリスティーナ様」

「早くしないとお姉さまが踏み込んでくるわよ」

「えっ暴風王女が」

思わず伯爵は王女の二つ名を言ってしまった。

その瞬間凄まじい爆発音がして城門が吹き飛んでいた。


「ダレル伯爵!反逆容疑で捕縛する。逆らうと同罪で、抹殺する」

大音声でジャンヌが叫んでいた。

「酷え、言う前に攻撃しちゃっているし」

「捕まえる気なんてサラサラ無いよね」

ブレットとジョンが言い合うのを

「じゃかましい」

と叫んでジャンヌは黙らせていた。






「伯爵。ここは私を信じて降伏しないと本当にこの城ごと吹き飛ばされるわよ」

クリスが脅した。


「お父様。私達はどうなってもよろしいではありませんか。せめて兵士たちだけでも助けなければ」

パーサが言う。

「パーサ」

感無量で伯爵は娘を呼んだ。


「クリスティーナ・ミハイル様。この身はどうなっても構いません。出来ましたら他の者は寛大な処分を」

伯爵がクリスに跪いた。


「判りました」

クリスは窓側に行った。


「お姉さま。伯爵様が降伏されました。直ちに戦闘の中止を」

大声でクリスが叫んでいた。


その声は戦闘に入っていた両者に聞こえた。

「えっ」

「どうなっているんですか」

ジャンヌらは驚いて戸惑った。


(余は絶対に許さんぞ!!)

ジャルカにはシャラザールの怨念のこもった声が聞こえたが無視するしかなかった。




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