赤い死神の大侵攻作戦で王国を蹂躙します…しかし、その前に無敵の戦神が立ち塞がりました

古里@3巻発売『王子に婚約破棄されたので

ダレル反乱

第1話 プロローグ1 赤い死神の誕生

アレクは12歳の冬をノルディン帝国の南部にある避寒地モーリン王国で過ごしていた。

ノルディンの冬は長く寒い。貴族の多くは南部のこの温暖の地でノルディンの属国のモーリン王国で過ごすのが流行っていた。


アレクは避寒にかこつけて本国から逃げてきていた。


アレクは自分の国が嫌いだった。


皆いつも他人を追い落とそうとしている。


そのためならなんでもした。


アレクはそういう事が苦手だった。


他人を追い落とすのは臣民のみでなく子だくさんの王族も同じだった。

男女合わせて20人以上いる王子王女の中の一人だ。

アレクの母の地位は高かったが、まだだれが皇帝の跡継ぎになるかは決まっていない。

第10王子が継げるかどうかは判らなかった。


その後継争いが最近富に激しくなりつつあったのだ。

アレク自体も何度か毒殺されそうになったことがある。

人を追い落とすくらいなら、比べられる位置よりもはるかに上に立てる実績を示せばよいだけではないかとアレクは後継争いが忌々しくもあった。

剣ならば誰よりも強く、魔術ならだれよりも強力に、蹴落とすよりは能力を上げることに力を入れれば良いだけではないかと。


しかし、最近も親しんでいた侍女に危うく毒殺されそうになってアレクは後継者争いが嫌になっていた。

また、アレク自身の赤髪が家族には他に誰もおらず、母が浮気をしただの、忌み嫌われた子だの、いろいろ噂されていた。それがあって母にもあまり好かれていなかった。


そういったもろもろの事に嫌気がさして、ここ避寒地の小国モーリン王国に2ヶ月ほど滞在していたのだ。


しかし、避寒地にいたところで、自分自身で剣や魔術の鍛錬をするのも少し飽き飽きしていた。


その湖畔でぼうっと湖を見ていると、橋の横で魚釣りをしている少女がいるのに気づいた。

少女は釣り糸を垂れてじーっとはしていなかった。

始終釣竿を動かしているのだ。


「こうかなっ」

「いや、こうかも」

口も動いているし、手も動いている。


「ああん、ダメ、全然釣れない。」

しばらくすると少女は釣竿を投げ出していた。



その姿があまりにもおかしくて、思わずアレクはにやりとしてしまった。


「何よ」

目ざとく見つけた少女がプイっとした。


「いや、ごめん。ごめん」

アレクは少女を傷つけたことに気づいて慌てた。


「釣りはよくするの?」

「そんな訳ないでしょ。本で読んで見て、一度やってみたかったのよ」

少女が膨れていった。


「ちょっと貸してみて」

アレクは少女から釣竿を借りた。

いつもは放っておくのだが、他にやることもない。


釣り糸を垂れるとそして、じいーーっと当たりを待った。

「えっ必死に動かすんじゃないの」

「おそらく違うよ」

「そうなの」

少女は黙ってじいーっと釣り糸を見る。


ぴくっと竿が動いた。


その瞬間にアレクは釣竿をひく。


針の先に魚が釣りあがってきた。


「うそっ。あなたすごいわ」

少女が感嘆していった。

「いや、君ほど竿を動かさなかったら誰でも釣れるよ」

アレクが赤くなって慌てて言う。


「仕方がないじゃない。釣りは初めてなんだから。今度は私がやってみるわ」

今度は少女が釣竿を握った。


二人が親しくなるのに時間はかからなかった。

結局二人は少女の侍女が呼びに来るまで釣りをしていた。


その少女イネッサは年はアレクの2つ上でこの国の男爵家の令嬢だった。


二人はアレクが王都に帰るまでよく一緒に過ごした。

イネッサは明るくお転婆な令嬢で暗くなっていたアレクの気分を明るく前向きに変えてくれた。

別れしなに二人は来年また会う約束をした。

アレクは士官学校で一番になって帰ってくるとイネッサは来年までにお菓子を作れるようになってアレクにふるまってくれると約束した。



そして、また避寒の時期になり、アレクは優秀な成績をとってこのモーリンに戻ってきた。

しかし、約束の湖畔にはイネッサはいなかった。

アレクはがっかりした。

勇んでやってきて馬鹿みたいだった。

二人は時たま文を交わしはしたが、この1ヶ月連絡がないことを気にはしていた。

誰か好きな男でも出来たんだろうか。

アレクは心の片隅が痛くなった。

別に好きだと言った訳ではないのだが、何故か心が痛かった。


どうするか迷ったが、せっかく来たのだからそのまま男爵の家に行ってみた。



「申し訳ありませんが、娘は亡くなりました」

男爵の言葉はアレクには青天の霹靂だった。

唖然とした。

何故なくなったのか何度も男爵に尋ねたが、男爵は病気で亡くなったとの一点張りだった。


1ヶ月前にもらった手紙では元気な様子だった。

そんな馬鹿な。


アレクは信じられなかった。

今にも元気なイネッサがこの部屋に現れそうだった。


いくら聞いても教えてくれない男爵に諦めたアレクは館を辞した。


しかし、諦めきれないアレクはイネッサの侍女に何とか渡りをつけた。


侍女は最初は中々教えてくれなかった。

アレクが頼み込むと泣きながら教えてくれた。

イネッサはモーリン王国の王子におもちゃにされた挙句に殺されたと。

家に帰って来た時はボロボロで意識は薬でもうろうとさせられていたと。

「アレク様約束破ってごめんなさい」と言っていたと。

その時、アレクの中で何かが切れた。

この国の王子は20を超えていたが、その行いは品行方正とは言い難いという事も噂には聞いていた。しかし、それがあのイレッサに向くなどという可能性をアレクは全く考えてもいなかったのだ。





ズッドーーーン

すさまじい爆発音とともに、湖畔に建つ優美な城の城門が吹き飛んでいた。


「何奴だ」

慌てて兵士たちが侵入者に切りかかろうとするが、一瞬で弾き飛ばされた。

そこには怒り狂った赤い髪の死神が立っていた。


「王子の所に案内しろ」

兵士の一人を捕まえて言った。


「出来るか」

そう言ったとたん兵士の体は四散していた。

血潮が飛び散る。

その血潮をもろにかぶった次の兵士にアレクが言う。

男はかくかくと頷いた。


兵士は怒りですさまじいオーラを出しているアレクの前を震えながら歩く。


途中で出てくる兵士たちはアレクが次々に倒していく。


王子たちは地下で領民の女たちを集めて騒いでいた。


その地下室の扉が弾き飛ばされる。



「何事だ」

王子が叫んだ。


「貴様がイネッサを殺した王子か」

アレクが案内した兵士を離して言った。


「イネッサ。誰だ」

王子が取り巻きに聞く。

「男爵の令嬢ですよ。あのアレクとかいう男の名前をずうーっと叫んでいた」

「ああ、あの女か。薬を打たれてよがり狂っていた」

にやりと王子は笑って言った。

ピキリとアレクの最後の安全弁がはじけた。


アレクが放った爆裂魔法は一瞬で小さな太陽を地下に作り出していた。

その炎はモーリンの王子を一瞬で焼き尽くし、地下牢を焼き尽くし、美しかった城は一瞬で炎の爆発の中に巻き込まれていた。


この日モーリン王国はこの世から消滅した。


この日からアレクは赤い死神と恐れられるようになった。

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赤い死神の誕生です。

次回からは曲った事の大嫌い戦神シャラザールの登場です

神であろうが悪は許さん

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