第3話

未来。曙光都市エリジオン。


ミシャムが言った。頭には猫耳。


「よく来たわねアルド君。ちょうど探していたところよ」

「ということは」

「そう。完成したのよ例のやつが」


ミシャムが液体の入った試験管を手にとる。

アルドが覗き込む。


「おお、これが……!」

「そう、これこそ猫化解除薬よ」

「成功したのか?」

「それを今から試すわ」


ミシャムが猫化解除薬を一思いに飲み切る。

すると頭の猫耳が引っ込んで消えた。

ミシャムが言った。


「どう?」

「な、治った……!」

「嘘!?ほんとだ!」

「やったな!実験は成功だ!」

「じゃあアルド君!この薬を急いで先生のところに持っていってあげて!」

「分かった!ありがとう!」


アルドが薬を受け取り走り出した。


(現代に行って先生を探そう!)


・・・


現代。王都ユニガン。


「あっ、ミヌエッタ先生」


アルドが歩いているミヌエッタを発見する。


(ミケ先生は彼女に預けてる。少し借りて薬を飲ませよう)


アルドが駆け寄る。

そこに三毛猫ミケが行く手を塞ぐ。言った。


「アルド、会いたかったぞ」

「ミケ先生!」

「まったくひどいんじゃないか君は」

「え、なんの話だ?」

「ひとまず街の外に来てもらうぞ。人目がある」

「分かったよ」


・・・


街の外。カレク湿原。王都ユニガン周辺。

アルドが言った。


「で、話ってなんなんだ?」

「とぼけるのはよすんだ。あの日君は僕をミヌエッタ先生のところに連れて行った」

「ああ。でもそれは先生が連れて行けって言っただろ?」

「確かにそうだ。でもね、僕は彼女の家で暮らすなんて一言も言ってないぞ!なのに君と来たら!僕が喋れないのをいいことに気楽にいいぞ、なんて言ってくれて!」

「それは謝る。でもあのときは仕方なかったと思うんだ。あれ断ると代行してくれなさそうな感じだったしさ」

「おかげで僕は毎日ひどい目に会っている!さっきやっとの思いで脱走したところだ!」

「悪かったって。代わりに良いもの持ってきたからさ」

「おい、それってまさか」


アルドが解除薬を出してうなずく。


「先生、これを飲めば人間に戻れるぞ!」

「にゃんだって!?それを早く言わないかアルド!」

「さぁ先生、口を開けてくれ!」

「よし!」


ミケが口を開け、アルドが試験管の液体を流し込む。

そしてミケがごくっと一思いに飲み込んだ。


「思えば長いようで短い猫生活だったけど、これでおさらばだ。ありがとうアルド。君がいなかったらどうしようもなかったよ」

「いや先生、本当によかったよ」


お互いを称える二人。

しかし、いつまで経っても変化はなかった。

ミケが訝しむ。


「ところでアルド、これはどれぐらい経ったら戻れるんだい?」

「おかしいな。ミシャムのときはすぐに効果が出たはずなのに」

「おいおいまさか、僕には効かないとかそういうんじゃないだろうな」

「先に街に戻っててくれ先生。あの姉弟に話を聞いて来るよ」


・・・


未来。曙光都市エルジオン。

ミシャムが言った。


「うーんなるほど、それは失敗だなぁ」


キムリットが続く。


「やはりご本人を直接調べるしかないと思いますが」


アルドが唸る。


「うーん、でもそれはなぁ」

「大丈夫よアルド君。まだやりようはあるわ」

「それ、俺に手伝えることはあるか?」

「もちろん。アルド君には先生の毛をとってきてほしいの。それを私達が調べればなにか分かるかもしれない」

「分かった。とってくるよ」

「待ってくださいアルドさん。これをどうぞ」

「これは?」

「猫用のブラシです。いいやつですからこれで撫でれば簡単に充分な量を採取出来るでしょう」

「ありがとう。早速とってくるよ」


アルドが歩き出す。


(ミケ先生のところに戻ろう)


・・・


現代。王都ユニガン。

アルドが人通りを歩く。


(よし、ミケ先生を探すか。いや、あれは……?)


アルドの視線の先にはミヌエッタ。ミケを抱えている。


(せ、先生……!)


アルドに気がついたミケが目で無言の助けを訴える。


「……」


アルドがミヌエッタに駆け寄る。


「ミヌエッタ先生!」

「あっ、アルド君」

「ちょっとその猫を」

「ハットンです」

「え」

「猫ちゃんの名前です。三毛猫だからミケにしようと思ったですけどね……」

「そ、そうか。それよりさ、俺もハットンを撫でさせてくれないか」


ミヌエッタがミケをかばうように抱きかかえる。


「ダメです」

「え。なんでだ?」

「アルドさん、先生の代行ってすごーく大変なんです。だから今はハットンと触れ合わせてください」

「いやちょっとでいいんだ先生。このブラシで一撫でするだけで」

「わがままですいません。疲れ果てて限界なんです」


ミヌエッタが顔をあげる。

アルドが目を見開く。


(よく見たらミヌエッタ先生、目のくまがすごいし、やつれてるぞ……!)


ミヌエッタが言った。


「どうしてもというのであれば、あるものを三つほどとってきてくださいませんか」

「あるもの?」

「はい。カレク湿原にいるツルリンからとれる葉っぱ。それがあればどんな疲れも消し飛ぶと最近もっぱらの噂で」

「分かった。今からとってくるよ」


・・・


カレク湿原。王都ユニガン周辺。

頼まれたものをとってきたアルドが街へ入ろうとする。

だがそこにミケが立ちふさがる。


「あっ、先生」

「やぁ。君が彼女のわがままに付き合うことはないと思ってなんとか脱走してきたが、遅かったようだね」

「別にお安いご用さ。疲れてるのは本当みたいだったし。先生ってのは大変なんだな」

「確かに大変だが、ありゃ自業自得だ」

「どういうことだ?」

「彼女があんなに疲れてるのは毎日夜遅くまで僕に構って寝れてないからなんだよ」

「なんだって!?」

「勘弁してほしいね。おかげで僕も寝不足だ」


ミケがあくびする。

アルドが言った。


「どうしてミヌエッタ先生はそこまで猫が?」

「子供の頃猫に助けられたんだってさ」

「猫に?」

「賢い猫って知ってるかい」

「ああ、童話だっけ。猫を助けたらそれが賢い猫で、色々恩返ししてくれて幸せになるっていう」

「そうだ。彼女も似たようなことを体験したらしい。そこから飛躍して友達になれるって信じてるようだぜ」

「なるほどなぁ」

「アルド、君はこの話信じるかい?」

「猫に助けられる、か。う~ん、でもまぁそうだったらいいよな。夢があってさ」

「なに言ってるんだ。猫が人を助けるわけないだろう」

「夢がないなぁ先生は」

「ちゃんと現実を教えるのが僕の仕事だ。さぁ、先に彼女にそれを渡して来るといい。僕に用事があるならそのあとだ」

「分かった。行ってくるよ」


・・・


王都ユニガン。

アルドが人通りの少ない場所でひっそり倒れているミヌエッタを発見する。


「せ、先生!大丈夫か!」


アルドが駆け寄る。

ミヌエッタがうわ言つぶやく。


「ハットン、ハットン……どこに……」

「先生しっかりしかしてくれ!」


ミヌエッタが力を振り絞って言った。


「猫ちゃんいないと私ダメです」

「俺だ先生!アルドだ!持ってきたぞ!」

「ハッ!ア、アルド君!」


ミヌエッタが立ち上がる。


「すみません。お恥ずかしいところを」

「よかったよ先生。これで元気になってくれ」

「あっ、とってきていただけたんですね!ありがとうございます!」


アルドがツルリンの葉を渡す。

そのとき、ミヌエッタが怪訝な顔になる。


「うん?」

「どうしたんだ?」

「アルド君、ハットンに会いましたね?服に毛がついてます」

「ああ、さっき会ったんだよ」

「約束と違うんじゃないですか」

「え?」

「だってそれを持ってきたらハットンを撫でていいという話だったじゃないですか」


ミヌエッタが詰め寄る。

アルドが言った。


「聞いてくれ先生。俺は確かに会ったけど撫でてはない」

「だいたいどこで会ったんですか。ずるいです。私が一番会いたいのに」


ミヌエッタがさらにズイと詰め寄る。

アルドが眉をひそめる。


(ミヌエッタ先生、すごい疲れてるんだな……でもまずはなんとか落ち着いてもらわないと)


そのとき、ミケが現れ言った。


「ニャア」


ミヌエッタが振り返る。


「ハットン!」


ミヌエッタがミケを嬉しそうに抱きかかえる。


「もう、どこに行ってのハットン」


ミヌエッタが顔を埋める。

顔をしかめたミケがアルドを見て言った。


「ニャア」


アルドが苦笑する。


(先生……!)


ミヌエッタが言った。


「すみませんアルド君。ちょっと取り乱してしまいました。もう大丈夫です」

「じゃあ約束通りミケ……じゃなくてハットンを撫でてもいいか?」

「ダメです」

「え」

「約束破ってますよね?そんな悪い人にはアルド君いえど指一本触れさせれません」

「待ってくれ先生。俺は……」

「問答無用です!これ以上言うなら代行やめますよ!」

「そんな……!」


そのとき。


「おい!いい加減にしろ!」


ミケがミヌエッタの腕から抜け出す。

ミヌエッタが目を丸くする。


「ハットン、喋った……!」


ミヌエッタが嬉しそうに飛びつく。

ミケがそれを回避して言った。


「おいおい先生!僕の声を忘れたのかい!」

「え、嘘……先生!?」

「そうだ!ミケだ!随分世話になったね!」


アルドが止めに入る。


「先生ここはまずい!」

「いや我慢の限界だ!さっきから黙って聞いていればわがままばかり!」

「なんで……?やだ……!」

「だいたい君は猫と友達になりたいと言っておきながらまるでダメだ!猫に服を着せる必要はないってどうして分からない!ありゃ猫にとっちゃ暑苦しくて仕方ないぞ!毛皮があるのが見えないのか!」

「違う違う……!喋らないで……!ハットンはそんな子じゃないんです……!」

「あと靴下履かせるのもやめろ!」

「なんでミケ先生なんかが猫ちゃんに……!」

「おいちゃんと聞かないか!少しは猫の気持ちを考えたらどうなんだい!僕のほうがまだ仲良くなれるぞ!だいたい猫と友達になれるわけないだろう!いい大人が!いい加減現実を見るべきだ!」


アルドが割って入る。


「先生!ストップ!そこまでだ!」

「止めるなよアルド!」

「でも気を失ってる!」

「にゃんだって?」


ミヌエッタが立ったまま気絶している。

アルドが言った。


「ミケ先生が猫だったの、相当ショックだったみたいだな」

「ふん、これで少しは目が覚めるだろう。それでアルド、僕になにか用があるんだろ?」

「あ、ああ。でも先にミヌエッタ先生を家に運んだほうがいいんじゃないか?」

「悪いがお手数かけるよ」

「さっきとってきた葉っぱが効けばいいんだけどな」

「ん?最近噂のかい?そりゃデマだよ」

「なんだって」


第三話終わり

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る