六年目・余話 まだ続く道
第154話 また、新しい世代へ
夏が終わった。
三年生の引退は、国体の終了後になる。
プロ志望の者に、大学は推薦が決まっている者は、そのまま野球部に残っている。
だが新しいキャプテンは決めなければいけない。
二年生の中で一番実力的に秀でているのは、もちろんユーキだ。
しかし野球部の感覚的に、ユーキはキャプテンという性質ではない。
すると内野と外野のごこでも守れる塩野か、内野の二遊間を守る大井あたりが候補となるのだが、結局は色々なポジションをやった経験が買われて、塩野がやることになった。
ただ塩野もまた、かなり独特な性格はしている。
純粋に野球の実力と、あとは周囲への目配りは優れているのだが、かなり……フェチなのだ。
何がとは言わないが、他の部員も一部は支持しているが、引いている者もいる。
だが野球部男子というのは基本的にはバカなので、問題にはならないらしい。
夏までのスタメンが全員ピッチャー以外は三年生だったため、まず守備位置のスタメン固定からが問題となった。
もっともそれに頭を悩ませるのは、監督である国立なのだが。
部長はしばらくの間は教頭が代行してくれて、マスコミや父母会、OB会への対策はしてくれるらしい。
ただし教頭は基本的に二年ごとの異動があるため、来年の春には誰かを選ばなければいけない。
白富東は実際の実務は、マネージャーや研究班が行ってくれるが、最終的な責任者は監督か部長になる。
そのあたりが大変な国立ではある。
とりあえずのスタメンは、二年生が五人、一年生が三人となりそうだ。
エースはもちろんユーキであり、ピッチャーは他に二年生から二人、一年生から一人。
甲子園で投げた耕作は、このチームの二番手になるのか。
本人はひたすら、自分が場違いだと考えているが。
ベンチ入りメンバーは二年生が13人、一年生が七人とした。
守備はセンターラインは重要だが、どうするべきか。
判断の多いセカンドには塩野を置いて、大井はショートを任せてみる。
そうやって決めていくと、それなりのチームは出来上がった。
甲子園のあとぐらい、少しはゆっくりさせてほしいと思うのは、一二年生である。
だが実際のところは甲子園に行ったために、新チームの始動は遅れている。
まして戦力の低下は明らかなので、速やかな再編は必須である。
国立としても正直なところ、頭が痛いのだ。
普通のチームはスタメンに二年が数人は入っていて、その経験を中心に新チームを作る。
もちろん白富東も、ベンチ入りメンバーにはちゃんと二年や一年がいたのだが、スタメン、もしくは主力となるとユーキだけとなる。
この秋の大会は、ユーキがどれだけ相手打線を抑えられるか、それにかかっていると言ってもいい。
だがもちろん週末を使って行われる秋季県大会は、ピッチャー一人では足りないのだ。
幸いなことにユーキは、甲子園で無茶な使われ方をしておらず、疲労は溜まっていない。
それでも打線も決まらない中で、秋季県大会本戦に入っていくわけだ。
もちろん他のチームは既に新体制に移行しており、県大会の地区大会を始めている。
なので練習試合を行うことさえ、かなり難しい。
だがそこは実績がものを言う。それなりの強豪と思われていたチームがうっかり負けてしまうと、白富東との練習試合を受けてくれたりする。
(甲子園の春夏連覇より、夏春連覇の方が難しいのは、このあたりもその理由なのか)
春から夏へのチームは、既に出来ているチームに一年生が加わるだけだ。
だが夏から春にかけては、一気に主力の三年生が抜けるのだ。
特に甲子園に出たチームは、新体制の始動が遅く、特に決勝まで進んでしまったチームは、一番始動が遅くなるのは当然である。
うっかりと負けてしまった棚橋高校との試合、白富東のグラウンドに迎えての練習試合となる。
地区大会は夏休み中に終わっていて、九月の下旬から始まる県大会本戦に向けて、他のチームは実戦経験を積んだわけだ。
公立としては強い棚橋も、負けたとはいえ経験は積んでいる。
おかげで夏休みの終わってすぐの週末に、試合が組めたわけだが。
この試合は白富東にとって、チームとしての問題点や、最適解を求めるためのものである。
まず気を遣ったのはバッテリーであり、エースはもちろんユーキなのだが、正捕手には一年の塩谷を持って来る。
二年の小野寺もキャッチャーとしての能力はそこそこなのだが、全体的に塩谷の方が能力が高いのだ。
ただ、能力だけではキャッチャーは務まらない。
ピッチャーをリードするキャッチャーは、信頼関係がないといけない。
もっともユーキはそのあたりはあまり考えず、リードに従って投げるタイプだ。
そして一年生のピッチャーである耕作も、普通に塩谷とは仲がいいため、この二人は塩谷がキャッチャーで問題ない。
国立はデータから判断して、二年生からピッチャー経験者をユーキの他に四人選抜している。
もっともベンチに入れるのは、二人までだろう。
そしてこの四人は、ピッチャーらしいピッチャーで我が強い。
年下の塩谷では従わない可能性があるため、小野寺と組ませることが多い。
塩谷はバッティングもいいので、なんなら代打で使うことも出来るだろう。
結果的にこの試合は勝てたが、課題が浮き彫りとなる試合ではあった。
これまでも人数の多さを利用して、下級生はBチームとして、いわゆる弱小との練習試合は行ってきたのだ。
だが本格的にAチームとなり、それなりに機能している棚橋などと戦うと、色々と連繋などが取れない。
なにより問題なのは打順だった。
選手の能力や性格を勘案して並べたつもりであったが、ヒットを打っても後が続かないことが多い。
試合自体は勝った。ユーキが中盤までを無失点で抑えて、ラストの三イニングを三人が投げて、二失点であった。
攻撃面でもつながったイニングに一挙五点を取れたのだが、それだけである。
あとはランナーを出しても続かず、打線にはそれなりの爆発力があるのは分かったが、全くチームとしては機能していない。
いくら主力が抜けたとはいえ、このチームにはもっと力があるはずである。
しかし経験の少なさと、新しくチームを作るということで、まだその力が機能していないのだ。
(これは秋季大会、実戦の中で手探りで勝っていくしかないか)
三里にいたころも、これほど新チームの編成で悩んだことはない。
新しい白富東の姿を模索する国立である。
引退した三年生の中で、野球や推薦で進学するのは、山村、宮武、大石、上山、石黒、といったところである。
なお石黒の場合は野球ではなく、帰国子女としての枠を使うとのこと。
文哲は完全に語学方面で受験する。
この中では宮武と上山には、プロからの調査書が届いたりもした。
あくまでも興味を示していますよ、という意味の調査書であるが、それでもプロになるためにはほぼ必須の過程である。
だが二人とも、自分がプロで通用するなどとは思っていなかった。
宮武は元々進学希望であったし、上山もキャッチャーというポジションで、自分がプロになるというイメージは描けなかったのだ。
具体的な話がほぼ決まっているのは、悟と宇垣である。
悟は調査書自体は全12球団から来ていたし、宇垣も五球団が関心を示していた。
高校生ドラフトというのは、球団にしてもかなりギャンブルなのである。
即戦力というのはほとんど求められないし、それに本当に戦力になるかも、かなり微妙なところなのだ
しかし悟ほどの成績を残していると、一年目から一軍で出番があるのはまず間違いない。
二人の間では、どこの球団に行きたいかという話になるのだ。
悟の場合はおそらく、一位競合になるのではと言われている。
一年の夏からスタメンであり、白富東のショートで三番というのは、大介のイメージが強く残っている。
先輩の七光りと言ってもいいぐらいだ。
宇垣の場合は、打力が求められているようだ。
たとえばポジションが埋まっている福岡や大阪、東京などからは調査書は来ていない。
そんな二人に加えて、野球推薦の三年生は、国体に向けてまだ練習に参加している。
それでもやはり、プロ志望の二人とそれ以外では、話す内容が違ってくる。
宇垣の場合はプロ待ちで、大学進学の話もあったりする。
甲子園で見せた打撃などから、どこかの球団が支配下で指名することは間違いないと思うが、それでも宇垣の守るサードやファーストなどが、競争が激しいポジションだ。
悟の場合はショートが守れてsの打撃があるというのが、まず間違いなく指名されるだろうと思われる要因だ。
ドラフト会議は10月の下旬。
二人の野球生活は、まだまだ終わらない。
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