第18話 ベランダにて

 真秀と霙はベランダに並んで、ほとんど星の見えない夜空を何となく見ていた。

「何か、バタバタしちゃって。ごめんね」

「いいや。俺にとってもいずれ義姉になる人の事だしな。気にするな」

 アイスコーヒーを飲む。

 村上は、取り敢えず実家に無事に帰ったとの連絡をし、大手一流企業の内定を蹴ってプラントハンターとなるために製薬会社の試験を受けたいという事、結婚したいし、子供もできたという事を電話で言うと、

「帰って来い!電話で済ますやつがあるか!」

と父親から一喝され、

「いや、まずは電話で、もちろんちゃんと帰って言うつもりだったよ?」

とおろおろしていた。

 川田夫妻と空は、

「お腹が大きくなる前に結婚式を」

「式にはこだわらないけど」

「それより大学はどうするんだ。住む所とか」

「その前に、あちらにご挨拶に伺わないと」

と額を付き合わせて相談していた。

「大変そうだなぁ」

 真秀は思わずそう言ったが、霙は仕事の事に捉えたらしい。

「プラントハンター?薬効のありそうな植物を求めて、未開の地とかに行くんでしょ?危ない事がいっぱいありそうよね」

「ああ、それも大変だけど、結婚がだよ。

 人生を共有するんだから。夢でも、諦めないといけない事があるかも知れない。お互いがお互いに、少しずつ譲歩して、2人で見られる新しい夢を作って行かないといけないんだろう。それが、結婚ってものなのかな。

 それに子供もできれば、責任も増える」

 真面目な口調で真秀が言うと、霙は神妙な様子で頷いた。

「そうね。これまで、結婚ってものを、ふわふわと、幸せになれるものって考えてたかも」

「まあ、俺達はお互い、高三になったばかりだからな。実感なんてなくて普通だよ」

「そうね」

 笑ってお互いを見た時、急に、距離が気になった。

 次いで、色々と、目に入ったものが気になりだした。

(やっぱり男の子だなあ。細く見えても、筋肉があるんだなあ)

(活発で運動神経がいいけど、女の子だな。筋肉がついてても、細いんだ)

(指、長いけど骨ばってるというか、女子と男子って違うんだ)

(髪、さらさらだなあ。

 そうだ。今、俺も霙と同じシャンプーの匂いなんだな)

(やっぱり、ハンサムよねえ。もてるんだろうなあ)

(かわいいよなあ。軍曹のほかにも、霙を好きなやつっているんだろうな)

(なんでもできるし、由緒正しい家の若様だし。歯並びだってイケメン仕様だもんね)

(リップだけ塗ってるのかな。きれいなピンクで、つやつやしてて)

 気付くと、すぐ目の前に相手の顔があった。

 はっとしたが、そのまま、目を閉じ、ゆっくり――。

「はああ!もう、大変だよ」

 ガラス窓が開いて川田氏が出て来て、バッと2人は1メートル程飛びのいた。

「ん?何?まさか今度はこっちがケンカしてるんじゃないだろうね」

 川田氏が顔色を変えるのに、真秀と霙はぶんぶんと力一杯首を振った。

「そんな事ない!大丈夫よ、お父さん!」

「そう!犬がいて、どこにいったかな、と」

「そう、そうなの。いたんだけど見失って!」

「どれどれ」

 川田氏が間に入り、下を見下ろす。

「あ、あれかな?」

 指さす先に、犬を連れて散歩している人がいた。

「いたわね」

(何でこのタイミングで出て来るかな、お父さんのバカ!)

「いたいた」

(ケンカ?してないよ。いいところだったんだよ!)

「ははは。ぬいぐるみみたいだなあ。

 良かった。霙と真秀君は、バタバタしないで済むようにね。頼むね」

(まさか、お父さん)

(見られてたのか?)

「お、今日の月は満月か」

 川田氏を挟んで、真秀と霙は緊張しながら3人で月を眺めていた。






 

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