第14話 失恋
軍曹は落ち込んでいた。
霙が階段の注意点を説明すると、真秀が罠にかけてやろうと言い出したのであそこへ行ったのだが、先にハカセが潜んでいて、そのハカセを狙う位置に回ったのだ。
一方、軍曹が真秀を追いかけ回すであろうことは明らかで、真秀はちらりと姿を見せながらあそこへ誘導したのである。
そしてハカセからしたら、板の隙間に人影が現れたので、引き金を引いたら軍曹で、上からは霙が撃って来たというわけだ。
軍曹は、死角に近い位置で真秀がしゃがみ込んでいたために気付かずに棒立ちになり、ハカセからの弾を受けてしまったのだ。
真秀達は、フレンドリーファイアまでは予想していなかったが、そうなっただけである。
「熱中して、視野が狭くなるのよ、軍曹は」
反省会で、マヤが言う。
「どうだった?」
「うん。この前のは命がかかってたけど、これなら面白いな」
霙と真秀がにこにこと言い合っている。
それを見て、軍曹は溜め息をついた。
「な。ほかにいい子がいるから」
ハカセが慰め、軍曹は頷いた。
霙の友人達とも仲良くなった真秀は、
「またやろう」
と約束し、霙と家へ帰って来た。
流石に軍曹が霙を好きなのは見ていて分かったが、心の中で「すまん。他を当たってくれ」と言うだけだ。
(なぜ霙はあれに気付いてないんだ?結構あからさまだと思うのに)
不思議だ。
「何?」
「いいや。いい友人達だな」
「そうでしょ!いやあ、学校にサバゲー同好会なんてあるから、最初はちょっとビビってたんだけどね。楽しいクラブで良かったわ」
霙はニコニコとして言い、真秀も余計な事は言わずにニコニコしておく。
「ただいま!」
「ただいま戻りました」
家に帰ると、入った所に霙の姉の空がいた。
「お姉ちゃん。どうしたの」
どうも、不機嫌そうな顔をしていた。
「お帰りなさい。
ちょっとね。けんかしちゃったのよ、昇太と」
昇太というのは、空の恋人である村上昇太である。
「ケンカって」
「大きい会社でせっかく内定が取れたっていうのに、断ろうだなんて。グダグダグダグダ!」
言うと思い出したのか、眉間に深い溝ができる。
取り敢えずはと手洗いとうがいをして、リビングに行く。
空はコーヒーを3つ入れて待っていた。
「内定がより取り見取りだった過去の時代じゃあるまいし、取れるところを取っておかないと困るでしょ」
それに、真秀も霙も困った。
「まあ。でも、やりたい事とかは?」
「やりがいってやつが持てないかもしれないし」
「甘いわね。やりがいなんてもの、就職するまでの話よ。それほどでなくても働いているうちに見つかるか、夢や希望を抱いて入社しても日々の仕事で単なる日常になるものよ」
空がそう言って、シニカルに笑う。
霙も真秀も、何だか怖くなった。
「そういうものですか」
「そういうものよ、現実は」
黙ってまずはコーヒーを啜る。
「で、ケンカしたの、お姉ちゃん」
空はキッと霙を見た。
「そうよ!思い出しても腹の立つ!
昇太ったら、『人生の事なんだから考えさせてくれよ』って。考えるなら、もっと前に考えとけってもんでしょう!?」
「そ、そうね、うん」
霙は反射的にうんうんと頷いて同意する。
真秀は考えていたが、言っておく事にした。
「とにかく、話し合う方がいいですよ。冷静に。結婚を考えているんでしょ?だったら、昇太さんの人生はお姉さんの人生とも関係があるんだし」
霙はうんうんと頷いて、
「電話した方がいいよ。あんまり時間が経つと、しにくくなるよ?」
と言う。
「まあ、そうね。そうするわ。ありがとう」
空はやっと心を静めてにっこりと笑うと、スマホを手にした。
霙と真秀はほっとして顔を見合わせ、コーヒーを啜ったが、空の声に吹き出しそうになった。
「あんのバカ昇太!!電源切ってるわ!話したくないって事!?
いいわよ、そっちがその気なら、いいわよ。別れてやろうじゃない!」
そして冷蔵庫にドスドスと足音も高く近付いて行き、缶ビールを取り出し、牛乳を飲むがごとくゴクゴクと飲み出したのだった。
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