第13話 紅白戦

 廃校となり、サバイバルゲームの為にレンタルされるようになった元小学校は、今どきにはない、木造だ。歩くたびに床が鳴るのは、鴬張りなのではない。老朽化のせいだ。

 気配を殺し、校舎内の敵を探す。

 今回は、相手チームを全滅させた方が勝ちというルールにした。人数が半端なので、じゃんけんで負けたマヤは見学だが、

「軍曹の奮闘がどこまで通じるか。真秀のスペックがどのくらいか。

 いやあ、楽しみだねえ」

とにやにやして、勝敗の行方を見守っている。


 軍曹は、

「あの顔にフルオートで弾を全弾ぶちこんでやる」

と言って、ハカセに

「やめろ。危険行為は禁止」

と言われ、オバQに、

「みっともない」

と冷たい目を向けられた。

 なので、ベストを付けた部分にフルオートをお見舞いしてやる気である。

 ギシ、ギシ、と、気を付けていても音がする。

 が、それは相手も同じ事だと、耳を澄まし、気配を研ぎ澄ませる。


 オバQは教室の入り口に身を潜め、相手が通りかかるのを待つ作戦に出ていた。

 どこかで、ギシ、と床の軋む音がする。

(来た!)

 そのまま息を潜めていると、警戒しながら歩いて来る人の影が見えた。

(あれは半蔵!)

 シルエットからそう判断し、向こうも1人らしいと確認すると、一気に飛び出して銃口を向けた。

 半蔵も、気配と窓への映り込みから、背後にオバQが飛び出して来たのがわかった。なので、振り向きながら横へ飛び、体を低くする。

 引き金を引いたのはほぼ同時だった。

 が、オバQの撃った弾は上にそれ、半蔵の撃った弾は、最初は外れたもののすぐに修正されてヒットした。

「ヒット!

 ああ、半蔵、流石よねえ」

 半蔵はおっとりとした普段の様子とは違い、銃を持つと、反応も早いし、射撃も正確だ。半蔵という綽名は服部という名前からのものだが、今では皆から、「服部半蔵の子孫と言われても納得する」「手裏剣代わりに弾を投げても当てそう」と言われている。

「ふふふ」

 弾に当たったら「死者」となる。これ以上動き、戦闘を続けるのはゾンビ行為としてルール違反だ。

 ゾンビを蘇生させられるというルールもあるが、今はそれじゃない。

「死んでるね」

 オバQはそのままそこに寝転んで、ひらひらと手を振った。

 そして、半蔵共々ギョッとした。

「び、びっくりした」

「足音してた?」

 ギシギシという音がしなかったのに、そこに真秀が現れたのだ。

「ん?ああ。足音はしない方がいいだろ?」

「忍者みたいなまねできないでしょ、普通」

「古武道の応用かな。

 じゃあ、このままいくから」

 あっさりとそう言って、真秀は立ち去った。


 ハカセはじっと潜んで、狙撃の体勢で待っていた。

 ハカセはどちらかと言うと、体力がない。なので、動き回るのは苦手だ。その代わり、潜んでスナイピングするのは得意だ。

 どこかで発射音がする。

(こっちに来てるな)

 視界に入るのは誰か。ワクワクしながら待った。


 霙は気を付けて捜索していた。同じ3階で、発射音がする。

(誰かな。

 それよりハカセはどこかに潜んでる筈なんだけどな。ここでスナイピングに適した場所は……)

 頭を切り替え、捜索に戻った。


 軍曹は、血走った目で敵を探していた。敵――霙、半蔵ではない。今の軍曹の探す相手は、真秀ただ1人だ。

(ぶっ殺す!)

 殺してはいけないし、そもそもこの電動ガンでは殺せない。

 足音を忍ばせ、視線をキョロキョロと動かす。

(どこだ。震えて隠れていたって無駄だ。見つけ出してやるぜ)

 そう考えながら、歩を進める。

 と、前方にある廊下の突き当りを人が横切った。

(いた!)

 軍曹は目を輝かせて走り出した。

(俺が、目を覚まさせてやるからな!)

 廊下の角を曲がって飛び出す。

 いない。だが、廊下は1本道だ。軍曹は追いつくべく走った。

 走る、走る、走る――。だが、いくら走ってももう少しというところで追いつけない。

「逃げてやがるのか、あの野郎」

 軍曹は意地になって、とにかく走った。

(しめた!)

 真秀の曲がった先は階段があるが、雨漏りで床が腐って危ないからと、板で封鎖されている。つまり、行き止まりだ。

 板を打ち付けてあり、両側は天井まで塞いであるが、真ん中は、覗く人間がいるのか乗り越えようとする輩がいるのか、腰の高さくらいまでしかない。

 しかし、1階へ下りる階段には見てわかるくらいの大穴が開いているし、3階へ上る階段にも飛び飛びに穴が開いている。なので、2階と3階の間の踊り場にも、同様のバリケードが作られている。

「残念だったなあ!」

 叫んで角を曲がり、銃口をそこにいるであろう真秀へ向ける。

「あれ?」

 真秀が隅にしゃがみ込んでいる、と思った瞬間、ポツンと胸に弾が当たった。

「あ」

 上の方からハカセの声がして、次いで、銃声と

「あ、ヒット」

というハカセの声がした。

「真秀!」

 踊り場のバリケードの向こうから、苦笑するハカセと、にこにこする霙が顔を見せた。

「読み通りだな」

 はめられた、と軍曹が気付くのに、そう時間はかからなかった。




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