第12話 ライバル

「許婚!?」

 全員が口をポカンと開ける。

「まあね。確かにそうは思ったわよ、私も真秀も。

 でも、そうと知らずに知り合ったから、実質的には、れ、恋愛、かな」

 霙は澄ましてそう答え、それからデレッと恥ずかしそうな嬉しそうな顔で真秀を見た。

 真秀も恥ずかしそうに笑って、霙を見ている。

 ゴールデンウイークを利用して真秀が霙の家に遊びに来たので、霙がサバイバルゲームの仲間に会わせようと、連れ出したのだ。

「何か羨ましいわあ」

 うっとりとしたように言ったのは、半蔵こと服部まどか。

「現代日本にそういうの残ってたのね。霙って実はお嬢様だった?」

 オバQこと小畑恭子がそう訊く。

「お互いのおじいちゃんが親友なんだって。それでね」

「子供がどちらも男だったから、孫でってね。

 祖父と父に感謝だな」

「よね」

 またも2人はにこにこと見つめ合う。

 そんな空気を気にせず、マヤこと半坂麻耶がバンバンと2人の肩を叩いた。

「おめでとう!嫌な相手じゃなくて良かったね、2人共!」

 その横で、ハカセこと加瀬 葉が、まだかたまったままの軍曹こと桜井武夫の肩をそっと叩く。

「祝福してあげなよ、ね」

「……そんな……」

 軍曹は霙が好きで、いつか告白しよう、大会で勝ったら言おう、と思い続けて来たのである。

「それにしてもカッコいいよね」

「いいとこの子って雰囲気あるよね、真秀君、でいいかな」

「運動神経も良さそうねえ」

 女子はすぐに受け入れ、高評価だ。

「この前旅行中にね――」

 霙は事件の事を語り、それに女子達とハカセはいちいち「おお!」などと反応している。

「で、黒瀬家ってのが今でも殿様で、真秀は若様ってことなのよ。黒瀬の祭りってニュースで毎年見るでしょ。あれよあれ。去年から、あれで棟梁代理をしてるんだって」

「へえ!」

「あれ、かっこいいよな」

「今年の流鏑馬、全部的中だったよね。凄いわ」

「ね、ね、サバゲーやらない?絶対に上手そうだわ」

「やった事はないけど、興味はあるかな」

 軍曹以外は盛り上がっている。

 と、軍曹が指を突きつけて叫んだ。

「そうだ、サバゲーだ!やろうぜ!そんなに甘くないって事を教えてやる!」

 言って、チラッと霙を見た。

(ここで俺のカッコいい所をアピールすれば、まだいけるかも知れねえ!)

「ああ、やろうか。グーとパーで」

 マヤが言い、

「グッとーパー」

で、一斉にグーかパーを出す。

 軍曹以外が、

(軍曹と真秀が同じチームになったら笑える)

と思っていた事は、軍曹には内緒だ。

 が、真秀、霙、マヤ、半蔵が同じチームになり、無事に敵同士に分かれた。

 別れてスタート位置に向かいながら、ハカセが軍曹にそっと言う。

「軍曹、諦めなよ」

「いいや。諦めないのが男だ」

「それによるけどね。こと恋愛には、ただのストーカーになりかねないし」

「あんなの、吊り橋効果ってやつに決まってる。俺が目を覚まさせてやるんだ」

「吊り橋ってより、がっちりした舗装道路みたいだけど……」

「ハカセ、無理よ。告白もしてないから、振られてないもん。振られれば良かったのに」

 オバQはあっさりと言い、ハカセは気の毒そうな顔をし、打倒真秀に燃える軍曹を見た。


 真秀達の方は、小声で作戦を立てた。

「あの軍曹、熱くなるタイプ?」

「だよね。熱血単純バカ」

「かわいそうだよお、マヤ。実力不足のビッグマウスっていうのも本当の事だけど」

 半蔵も容赦がない。

「えっと、まあ、そういうタイプよ」

 霙はそう結論付ける。

「じゃあ、きっとあの様子じゃ、俺を完全にターゲティングしてくるな」

 真秀と霙は、顔を見合わせてニヤリと笑った。



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