第9話 ラスボス
立っているのは、真秀とゲストと女だけだった。
「ん?連れの女はどうした」
ゲストが言うと、呻き声をあげてリーダーが立ち上がり、憎々し気に真秀を睨んでゲストの方へと真秀から距離を取った場所を歩いて行った。
「いない。どこにやったか、尋問してやろうと……」
そして、エアガンを掲げて憎々し気に嗤う。
「何発耐えられるかな」
「賭けようぜ。一番近かった奴から、こいつを撃つってのはどうだ」
拳銃を振る。
「死んだらどうするんだ?」
「埋める」
「最初で殺さないようにしましょうよ。面白くないから」
彼らは面白そうに笑った。
真秀は微かに眉をひそめた。
(こいつら、これまでにもこういう事をしてたのか?)
その間にも、彼らは賭けを始める。
「俺は3発」
「私は7発で」
「じゃあ、俺は10発だ。女が逃げる時間を稼ぐ気だろうからな」
真秀はそれに何も反応を見せなかったが、霙の無事を祈った。
そして、真秀の正面に立ち、エアガンを構えた。まずは、女かららしい。
「どこにしようかな」
3人共楽しそうだ。
あまり慣れているようには見えない構えで、女がエアガンを構えて狙いを付ける。
その時、女の足元に発射音と共に弾が叩き込まれた。
「きゃあああ!!」
「何だ!?」
3人共腕で頭をかばい、体を丸めるようにして何が何かわからないままに叫び声を上げる。
それと同時に真秀は距離を詰め、エアガンを持つ手を蹴り上げてエアガンを蹴り飛ばした。ゲストは懐に手を入れて拳銃を出そうとしたので腰を蹴って転がし、リーダーが向かって来たので、足を払って転がした。
そこに弾が降り注ぐので、悲鳴を上げて小さくなる。
霙が彼らの背後から、エアガンを浴びせかけていた。
「あ」
弾切れだ。
リーダーがそれに気付いて起き上がり、怒りに燃えた目で真秀へと向かって来る。
同時に、ゲストが恐々起き上がるのも見えた。
「この野郎!」
リーダーは、背後から襲われた事を忘れでもしたのか、弾切れに気付いているのか、とにかく真秀に怒りをぶつける事しか頭にないようだ。
助かったが、流石に今度は霙に離れてもらいたいと真秀は思う。
しかし霙は怒り、ヒステリックに目を吊り上げた女と掴み合いを始めた。
「この、クソ女!」
「こんな事しておいてよく言うわね!」
リーダーは殴り掛かって来たが、ボクシングの基礎は知っているのか、一応それらしいポーズである。パンチを繰り出しては引き戻して構える。
それを、ひょいひょいと真秀は避けていたが、それが付け焼刃であるとわかった。伸びて来た腕を払って足を払い、体が泳いだところで、殴りつけた。
「そこまでだ!」
ゲストへと向かおうとした矢先に、そのゲストから声がかかる。
いつの間にか女が座り込んで憎々し気に霙を睨みつけているのだが、その霙は、ゲストに後ろから首に腕を回されて、ナイフを突きつけられている。
霙が悔しそうな、済まなさそうな顔を真秀に向けていた。
真秀は、どうやら霙にケガが無いらしい事に、ほっとした。
リーダーが起き上がって、真秀に殴りかかろうとするが、それをゲストがイライラと止める。
そこで、遠くからパトカーのサイレンが近付いて来ているのに気付いた。牧場の人間が、堪り兼ねて警察に電話したのだろう。
「行くぞ!」
霙を人質にしたまま、急いで外に出て行く。
「雪を離せ!」
真秀は追うが、ナイフがあるので下手に動けない。
見ている前で、彼らは車に乗り、霙を後部座席に引きずり込んで走り出した。
パトカーがここへ到着するのはまだ時間がかかる。
真秀は牧場に走った。
霙は車に引きずり込まれて、ナイフが首元から外れた。
(背後から襲撃するまでは上手く行ったのに)
真秀が何とかするから警察に通報してくれと言ったが、警察が来るまでに手遅れになるのは間違いないと思った霙は、襲撃に出た。
そこまでは上手く行ったが、弾がすぐに切れて、予備が無かったのが敗因だ。
「何でたった2人に全滅してるの!?」
「うるさい!黙れ!」
助手席から喚く女に、運転席のリーダーが怒鳴り返し、ゲストは貧乏ゆすりをして頭を抱える。
(どうしよう、どこに行くつもりかしら。着いたら私はどうなるの)
飛び降りようにも、車はスピードを出していて無理だ。大ケガをするだろう。
(真秀が、何か無茶をしてないといいけど……)
このまま黙って警察の到着を待つ事は無さそうだと、霙は考えた。
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