第8話 逡巡

「どうした?返事しろ」

 近付いて来た男は、おかしいものを感じているようだ。

 真秀と霙は気配を殺して身を隠しながら、彼の気配を探っていた。

(違法改造で、当たりどころが悪ければ大けがしかねないのがわかったな。これで撃たれるわけにはいかないが、雪にも撃たせるわけにはいかない)

 それで真秀は、霙に合図を出して、静かに彼をやり過ごしてから音もなく階段を下りて行った。

「雪。奴らの人数も減ったから、ここから脱出しよう」

「放っていくの?」

「警察に通報する」

「逃げられるんじゃない?誰かがこんな目に合わされるわよ、きっと」

「それでも、危険だ。違法改造で、威力が危険なくらいに上がってる。雪に当たるのも、雪に使わせるのも嫌だ」

 霙は考えながら、真秀について階段を下りていた。

(真秀の言い分もわかる。でも、そう上手く行くかしら)

 言っているうちに1階に着く。

 玄関前に1人がいて、真秀と霙に気付いてすぐに発砲して来る。

「今までで一番いい反応だな」

「呑気ね!」

 言いながらカウンターの陰に飛び込む。

 弾が飛んで来て、背後のコンクリートの壁に当たって壁に傷をつける。

 何発かこちらも牽制で撃って、彼を太い柱の陰に押し込む事に成功した。

「どうした!?」

 上から走り下りて来た最後の男の足元に霙が弾を打ち込むと、男は悲鳴を上げて、仲間のいる柱の陰に飛び込んで行く。

 これで膠着状態だ。

「裏口はこの奥か。回り込まれたらまずいな。その前に行くぞ」

 真秀は霙を先に裏口へと続く廊下に行かせ、男達にエアガンを向けて牽制しながら続いた。

「どうした?」

 リーダーの声がする。

「やつらが逃げていきます!」

 そんな声が聞こえるが、もう構わずに走る。

「真秀!」

 霙の押し殺したような声がして、それを見た。

 裏口にはドアが付いていて、鍵がかかっていた。

「何でここだけ付けたんだよ」

 施工業者が恨めしい。

 追って来るのは間違いない。

「どうするの!?」

 霙は緊張した声と表情だ。

 時間はない。真秀が周囲を見回すと、高い所に窓があった。明り取り用のものだろう。細いが、通れそうだ。

 ただ、どちらかが台にならないと届かないだろう。

「そこの窓から逃げろ。林伝いに行けば牧場に着く」

 迷いはなかった。

「真秀は?」

「俺は……とにかく急げ」

「置いて行けないわよ!」

「時間がない。逃げて通報してくれ」

 真秀は有無を言わさず霙を窓の下へ連れて行く。

 霙はグッと唇を噛んだ。

(確かに、時間はないし、ここ以外に逃げる場所はないわ。

 でも間違いなく、残った真秀は捕まる。それで本物とか言ってた拳銃で撃たれるわ。ケガじゃ済まないかも)

「急げ!」

 急かされて、霙は真秀を見た。


 霙が窓の向こうに消え、真秀はその場で男達が来るのを待った。

「居やがったか」

 リーダーが言い、周囲をさっと見る。

「女はどうした?」

「さあ?」

 言う真秀に、イラついた顔をしたが、

「まあいい。拷問ってのもやってみたかったしな」

とニヤニヤし始めた。

(ゲスが)

 真秀は前後を挟まれて、ロビーまで戻った。

 そこで、足元に転がる弾でよろめいたように上体を揺らす。

 そして、後ろのリーダーともう1人に回し蹴りをしてエアガンを弾き飛ばし、リーダーの頭を蹴って失神させる。

 次にもう1人の男の背後に回って腕をとると、前を歩いていた男が振り返り、エアガンを連射してくるところだった。

「うわああああ!!」

「やめろ!!痛い痛い痛い痛い!!」

 2人は叫ぶが、発射音で何も聞こえない。

 ようやく男が、仲間に弾を浴びせている事に気付いて慌てて銃口を上に向ける。そこに盾にしていた男を突き飛ばして、絡まって倒れた所を蹴ると、失神した。盾にしていた方は、呻きながら泣いていて、何もできそうにない。

(いじめかと思った訓練が、初めて役に立ったな)

 そんな風に考えて顔を上げた真秀が見たのは、入り口から入って来てこちらに銃口を向けているゲストと女だった。

「よくやったな。でも、ここまでだ。惜しかったな」

 女はニヤニヤと、やけに嬉しそうに笑っていた。




 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る