第7話 2人目

「いたか?」

 声を上げながら、もう1人が歩いて来る。

 そして部屋をヒョイと覗いて、拘束されて転がる仲間を目にし、ギョッとしたように立ちすくむ。

 その次の瞬間、入り口横に貼り付いていた真秀が銃を掴んで腕ごと捩じり上げ、男は膝をつく姿勢になった。男は大声で叫ぼうとしたが、目の前の至近距離――というより、眼球の前1センチのところに銃口があるのに気付いて、冷や汗を流して硬直する。

「黙って」

 霙は、短く、感情を見せないように命令した。

 男はゴクリと唾を飲み込んだ。

 そして手早く、靴下、上着、ベルト、靴紐と、1人目と同じようにしていく。意識があるので、この男は、靴下を口に入れられるのを泣きそうな目で耐えたのが違いだろうか。

 時間は、2分もかかっていない。協力すれば早いものだ。

 真秀と霙は部屋を出て、小声を交わした。

「後の連中は、無力化するかやり過ごせばいい。出口を目指す事を優先しよう」

 霙はやや不満顔だ。

「猫の敵を討たないの?」

「逃げ出してから警察へ言えばいい。

 何せ、拳銃を持ったヤツがいるんだ。これじゃ敵わない」

「確かに」

 霙は真秀の意見に、渋々同意した。

「おおーい?いたか?」

 声が近付いて来るので、2人は素早く身を隠した。


 リーダーとその友人と女を残した男6人がまずは入り、ばらばらに散って探していた。

 見付けたらリーダー達の所へ連れて行くが、取り敢えず見付けた時は、撃ってもいい。

「でも、本当に拳銃で試し撃ちするのかな。流石にやばいような気がするけどな」

 二言目には親の力でもみ消すと言うが、銃で殺したりケガをさせるのは、無理なんじゃないかと思う。これまでにも、気に入らない奴を殴って骨を折ったり、ホームレスを家ごと川に叩き込んだり、生意気な女を輪姦して写真を撮ったりしたが、どうなんだろう。

(でも、いいか。拳銃を撃つのは俺じゃないし)

 そう短絡的に考えて、彼は歩を進めた。

 微かな音が聞こえ、

「見付けたぜ!」

と言いながらその部屋に飛び込み、同時にそのかたまりに弾を浴びせかける。

 小さく身を縮めるようにしてブルーシートを被り、隠れているつもりだろう。射撃音とシートに弾が当たってバラバラと立てる音がうるさくて、声も聞こえない。

 気持ちよく撃ちまくり、ようやく弾が無くなったところで、彼は近付いてシートをめくった。

 その下にはベニヤ板があり、穴が開いている。違法改造してあるので、ベニヤ板くらいは貫通するのだ。

 いくらかは体にくらっているだろうとニヤニヤしながらベニヤ板を除け、驚いた。

「ええっ!?」

 顔は上着で隠れていたが、そこにいたのは仲間の2人だった。方々に小さい傷ができて出血もしている。

「誰が!?」

「お前だろ」

 声と共に、いつの間にか側にいた誰かが彼の頸動脈を押さえて、彼は失神した。


 真秀はそいつが失神しているだけなのを確認して、床に転がした。

「今の音で来るかも」

 霙は廊下へ目をやって言う。

「片付けて出るしかないか」

 真秀が言うと、霙は楽しそうに笑った。

「逃げるだけじゃ気が済まないわ。真秀だってそうでしょ」

「俺はそこまで好戦的じゃないぞ」

「うそ。顔が笑ってるわよ」

 真秀は顔に手をやり、肩を竦めた。


 下の方で音がしたので、4階を捜索していた彼は舌打ちをした。

「チェッ。外れか」

 そして、彼は階段を降りて行く。

 これまでにも人に暴力をふるって来たが、素手や角材、違法改造したエアガンでだった。

 過去には、鉄板を撃ち抜けるような改造をして逮捕された人もいるが、今は改造をある程度までしかできないようにして売っている。それでもケガはするのだが、本物の銃なら、もっと凄いのだとわかっていた。

 本物を見たのは初めてだ。撃ってみたいと思う。せめて、それで人を撃つところを見たいと思った。

「へへ。痛いんだろうなあ。何発くらい、耐えられるものなのかな」

 彼の想像は、所詮、その程度だ。

 ニタニタとしながら、何の警戒心もなく廊下の角を曲がった時、視界の下から何かが突き上げられて来た。

「え!?」

 それが掌だと気付いた時には、それが顎を捉え、彼はクラクラとして立っていられなくなっていた。脳震盪だ。

 揺れる視界の中で、真秀の顔が見え、瞬時に頭に血が上る。

「て、めえ……!」

 その後頭部に硬い物が突き付けられ、霙の声で、

「これの威力は、自分達がよく知ってるでしょう?」

と告げられる。

 今度は瞬時に血の気が引く。

 忙しい事である。


 真秀と霙はそいつの意識を刈り取った。

「無抵抗の人間相手じゃ、武器だよりで危険も無かったらしいな」

「こいつら、全員逮捕させないと気が済まないわ」

 侮蔑の目で見下ろした時、新たな足音が接近して来た。




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