第6話 1人目
息を殺して身を潜めていると、足音を隠す気もないらしい彼らが、自分達の有利を確信して真秀と霙を探しているのがわかる。
(まあ、オモチャとは言え向こうは武器を持ってるのに、こっちは無手だからな)
真秀は、バラバラになって探し始めるのを聞こえて来た話し声から知り、都合がいいと思いながら誰か1人が近付いて来るのを待った。
霙はサイバルゲームで、こういう廃墟をステージにした事もある。しかし当然の事ながら、無手ではなかった。
(猫の内臓にダメージを与えるくらいだし、どうせ、改造して威力を上げてるに決まってるわね。本当に、こういう人がいるから、真っ当なゲーマーまでそういう目で見られて肩身が狭くなるのよ)
心の中で憤慨して、身をひそめた真秀を見る。
(やった事はないって聞いたけど、大丈夫かな。たかがオモチャの弾、とか思ってないでしょうね)
普通でも、目に当たれば失明するかもしれない。威力を強めたものなら、どこかに当たったら大ケガをしかねない。
それについて注意していなかった事に気付いたが、誰かの足音が近付いて来ている今、声を出す事はできない。
当たらない事を祈るしかなかった。
1階から1人が上がって来た。何の警戒もしていないのが丸わかりの足取りだ。いや、わざと存在を知らしめて、追い詰めているつもりなのだろう。
持っているのは電動ガンのライフルで、銃口は下を向いている。
(こういう狩りや動物をいたぶる事ではそれで勝てたんでしょうけど、同じゲーマー相手ならだめね)
霙はそう批評し、そのまま息を殺して彼を注視していた。
ニヤニヤとしながら、舐めきった足取りで1人が進んで来た。
(大したことはなさそうだな)
真秀はそう思いながら、そいつが目の前を通り過ぎるのを見守った。
そして、真横を過ぎると静かに立ち上がり、背後に立つと、肩を軽く叩いた。
「あ?」
男が振り返り、驚愕に目を見開く――が、その時には、上着を丸めたものをそいつの口に押し当てながら壁に後頭部を叩きつけ、片手で銃を上から掴んで一気にねじる。
すると、銃を持つ腕も引き金にかけた指も痛いので、男は銃を取り落とす事になる。その次は、足を払って床に転がし、頸動脈を軽く押さえて失神させる。
グッタリした男をズルズルと部屋の中に引きずり込む真秀に、出て来た霙は呆然としたような顔を向けた。
「何がどうしたの?」
「無力化して、失神させた。それを使えるか、雪」
霙は足元のライフルを拾い上げた。
「大丈夫」
震えは止まり、ニタリと笑顔が浮かびそうになる。
「反撃してやる」
「頼もしいな。泣き出して動けない女だったらお手上げになるところだった」
真秀もニヤリと笑って、男の靴下を丸めて口に突っ込み、上着を脱がして顔を覆うようにして縛った。その上ズボンのベルトを抜き取って腕を後ろ手で拘束し、靴紐で足首を縛る。
「どこでそんな事を……?」
流石に霙も困惑したような声を上げる。
「知り合いに習ったんだ」
護身のためにと、ボディーガードに教え込まれた事のひとつだ。
手早く男を縛り上げると、部屋の隅に放置して、2人は素早く部屋を移った。
「まずは1人」
敵はあと8人だ。
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