第5話 終点

 バンの前後をバイクで挟み、一行はどこかへ向かっている。中心部を離れ、山の方へと向かっていた。

 そして車内では、女がまだ、ナイフを突きつけられていた。

「離したらどうだ。危ないぞ」

 真秀が言うと、ナイフを持つ男はやや狼狽え、ナイフを少し離して、

「おかしなまねをするなよ」

と真秀に言う。

 巻き添えにしたのは自分達の方かも知れないと思うと、余計に、その女にもけがをさせるわけにはいかない。

(反撃は、着いてから考えるか)

 そう考えて大人しくシートにもたれた。

 スマホはとうに、取り上げられている。

 やがて車が止まったのは、山に中にある、廃屋の前だった。近くに厩舎も見える。

「ここって……」

 霙が、動物病院で聞いた場所と一致する事に気付いて、真秀を見た。

「ああ。こいつらが、言ってた奴らだろうな」

 小声でやり取りをし、促されるままに車を降りる。

 そのまま歩かされて入り口まで来たところで、足を止め、リーダーが言った。

「サバゲーって知ってるだろ。あれをするんだがなあ。今日はビッグなゲストがいるから、遊び方も特別だ。本物の拳銃があるんで、お前で試し撃ちしてやるよ」

 言うと、市議会議員の息子が、得意そうにショルダーバッグから拳銃を抜いた。

 真秀と霙が、表情を引き締めた。

「女を俺達と遊ばせるなら、お前は助けてやってもいいぜ」

 言うそいつに、真秀は冷笑を返した。

「そんな気はないだろ?こっちもない」

 それにリーダーとゲストは笑った。

「この女はどうする?こいつは好きにしていいのか?」

 人質にされている女に顎をクイッとやって言うが、それに真秀は詰まらなさそうに答えた。

「そいつはお前らの仲間だろ」

「ええーっ!?」

 霙が声を上げるのに、解説する。

「最初はわからなかったけどな。車の中でも落ち着いてるし、拳銃を見せられても驚いてないしな」

 霙はわなわなと震えながら、女を指さした。

「じゃ、じゃあ」

「ああ。心配して損したな。放っておけばよかった」

 女はニヤリと笑って、真秀に言う。

「冷たいのね。

 ねえ。私も楽しみたいわよ。こっちをもらっちゃだめなの?」

 これにリーダーとゲストは目を見交わしたが、即、真秀が断った。

「断る」

「フラれてやがんの。ダッセー」

 リーダーに言われ、女は目を吊り上げてリーダーを睨み、続いて真秀、霙と睨んだ。

「あっそ。じゃあ、好きにすればいいわ。死んでも知らないけど!」

 霙は勢いよく手を上げた。

「はい!私も嫌だから、真秀と一緒で!」

 彼らは真顔で真秀と霙を見て、盛大な舌打ちをした。

「ああ、そうかい、そうかい。だったら期待通りに、2人一緒にあの世まで行かせてやる。後悔するなよ」

 言い、真秀と霙に銃口を向ける。

「中に入れ。2分したら中へ入って行く。狩りの始まりだ。

 せいぜい、楽しませろ」

 真秀と霙は囲まれていて、逃げ場も無い。

「行くぞ」

 真秀は霙に声をかけ、廃屋の中に足を踏み入れた。


 そこはマンションを建設していたところだったのだが、途中で資金が尽きて放置されているというものだ。基礎的なところはできているが内装などは全くで、コンクリートが打ちっぱなしで、ドアも窓もないし、灯りもない。

「どうするのよ、真秀」

「人数を減らして外に出る。窓もないし、できるだろう。後は、隣の牧場に逃げ込む」

 霙は震える拳を握り込んだ。

「わかった」

「危ないから、前に出るな。

 サバイバルゲームをするんだったな。武器を奪ったら使えるか」

「ええ。使ってるのと同じ物もあるしね」

「わかった。手に入れてみよう」

 真秀はあっさりと言って、見晴らしのいいロビーになる予定だったらしい1階に潜むのは諦め、霙を連れて階段を上がった。

 そして、身を潜める。

 そこで2分経ったのか、玄関から入って来たらしい靴音がした。

(さあ、来い。雪は絶対に守る)

 奴らを明確に、敵と認定した。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る