第4話 ナンパ
待ち合わせの場所に先に戻ったのは、霙だった。
(そう言えば、猫の血がついて、上着だめになったのね。似合ってたのに)
そんな事を考えて、残念に思う。
と、複数の足音が近付き、声がかけられた。
「ねえ、彼女。1人?」
見るからに頭もモラルも軽そうな高校生か大学生くらいの男が3人霙を見ていた。
こういうタイプは、霙の苦手とするところだ。
「いえ。連れがいますので」
「女の子?」
「いえ」
「じゃあ、いいじゃん。放っておいて、一緒に遊ばねえ?」
霙には理解不能の文脈だった。
「いいえ。私は」
言って、よそを向く。
が、その先に回り込んで、しつこく誘う。
「固い事言わないで」
「固いとか固くないとかじゃなく――」
「いいから来いって」
「やめてください!」
霙の腕を掴もうとするので避けようとすると、別の男の手がそこにある。
と、その手を誰かが掴んだ。
「俺の連れに、何か?」
「真秀!」
ホッとしたような声を霙が上げ、男達は真秀を見た。
堂々としていて、妙に威厳があり、顔面偏差値はどう見ても真秀が高く、どこか不機嫌そうにしている。
それで男達は気圧されたようになり、もごもごと言葉にならない何かを言いながら退散して行った。
「悪い。遅くなった」
「ううん。行こう」
霙が振り返ると、男達は、少し離れたところで足を止め、こちらを見ている。
真秀は霙の肩を軽く抱き、離れて行った。
男達は、軽い舌打ちでそれを見送り、自分達のリーダーの所へ戻った。
リーダー、それと男が6人とケバい女が1人。それが彼らの人数だ。それに今日はリーダーの友人という市議会議員の息子が合流していて、ケバい女1人しかいないので、そこにいた霙に目を付けて「連れて来い」と命令されたのだ。
「すいません。連れの男が」
言い訳するのに、リーダーが遮るように頭をはたく。
「見てたよ!くそ」
女が、ケタケタと笑う。
「イケメンだったし?こいつらじゃ負けるでしょ」
それに、男達が全員ムッとした。
「腹が立つなぁ」
「いい事思い付いた。今日の試し撃ち、あのイケメンをターゲットにしてやろうぜ。その後、女はみんなで楽しめばいい」
男達は目を輝かせるようにして、相談を始めた。
真秀は離れた所まで来ると肩から腕を外し、霙に言った。
「事情は分かるし、同感だけど、流石に女の子が一晩家出はやめた方がいいよ。送るから」
霙は口を尖らせて真秀を見た。
「真秀はどうするの」
「俺は……」
明日は外せない用がある。
「帰らない訳には行かないな。明日、大事な用があるから」
揃って小さく笑った。
「家出の終わりはこんなものか」
「しょぼいものね」
溜め息が出た。
どこか、離れがたい。
「ねえ、アドレス交換しない?」
「そうだな。許婚がどうなったかも気になるしな」
「そうよ」
交換しようとスマホを出し、お互いにはっとした。
(ヤバい。本名だ)
どちらもそっとスマホをロックする。
どうやって切り抜けるか忙しく考えていると、背後で若い女の悲鳴がした。
振り返り、それを見た。先程の男達が、若い女の子を羽交い絞めにして、大きいナイフを首筋にあてがっていた。
「やめろ!」
「うるさい!」
すぐ横に、黒いバンが停まり、ドアが開く。
「お前ら、乗れ!この女がどうなってもいいのか!」
見ず知らずの女性だが、それで知らん顔もできない。
「卑怯者!」
霙が吐き捨てる。
「助けて!お願い!」
女が言い、真秀は嘆息して霙に小声で言った。
「どうにかして雪は助ける。隙があれば、逃げろ」
霙は小声で返す。
「雪……ああ、はい。
でも、私だって負ける気はないわよ」
「わかった」
2人は言われたとおりにバンに乗り込んだ。
その後から、女も押し込められる。
こうして、どこに行くのかわからないまま、ドライブに出発したのだった。
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