聴取8
荷物を返し終えた車掌に、少しだけ付き合ってもらった。
「ジャックされるまでほんとうにいつも通りでした。ええ。荷物確認がおろそかだったのが一番の後悔すね。突然扉が壊されて二人が入ってきました。片方は若い声で、片方は低く渋い声。それでおとなしく運転していろと言われたので運転していたんです。配信が終わるまでじっと運転していました。殺されるんじゃないかって内心ヒヤヒヤしていました。それで配信が終わった後に突然薬を飲まされて。拒否できないんで飲んですぐに寝ました。長田さんに起こされるまっでずっと寝てました」
「個人情報など提示できるものはありますか?」
「ええ、こちらの方ですね」
手帳を取り出す。長田さんが手に取り僕に見せる。「写真と同じかどうか一緒に見てくれ」
「はい」
丸くて小柄だ。濃い顔は乗り移ることも出来なさそうだ。写真とは表情以外あまり変わらない。質問しても個人情報と異なる部分は無かった。
「スマホを返却したときに変なことはありましたか?」
「いえ。協力してくださったおかげで移動も処理もすぐに終わりました。ただスマホが一個余りました」
「見せて頂いてもよろしいですか」
「はい」
取り出したスマホを操作する。画面をつけると当たり前だがロックがかかっていた。数字を打ち込むものだ。
「役に立ちますかね」
「ええ。十分です。ご協力ありがとうございます」
「……こんな事態になる前に気づけば良かったんです。本当に申し訳ない、なんとお礼を言ったらいいか……」
「まだ解決していません。それに、俺たちが事件に集中できるのは乗客の様子を気にかけてくださる車掌の方のおかげです」
車掌は泣きそうになっていた。僕は胸が潰れそうだった。
本当に僕に命を任せていいと信じているのか。
正直投げ出したい。正しく、誠実に生きてきた奴にこの能力を渡したい。
何故僕なのか。誰でも良いから聞きたかった。だが、今は無理だった。此処には僕以外居ない。僕がやるしかない。
叫びを押し込めて、最後の証言に向かった。
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