別視点2

列車全体に銃声が響く。瞬時に里見が自分の能力を使用した。半径一キロ以内を透視できる目で前方列車を視る。里見は障害物を無視し、ドローンのようにカメラを接近しズームイン、ズームアウトし焦点を合わせることができる。四号車からから順々に視線を巡らす。

四号車、覆面が耳のあたりのヘルメットに手を当てて棒立ちになっている。騒ぐ乗客を無視して耳を抑えている。

三号車、乗客が騒いでいる。覆面は銃を下ろして前方を正視している。

二号車、誰も居ない。

一号車、後部ドアの近くで男が拳銃を構えている。夏目に視線を移すと、対談する男が頭から血を流している。銃声はこれだ。

 里見は目を戻し、覆面の居る前方に目を向ける。動揺しざわつく乗客を無視し覆面は耳に手を当てながら辺りをせわしなく見回している。前方連結部へ覆面が走る。里見が目で追う。五号車と四号車の間の休憩室で覆面が合流した。何か話そうとして、二人とも喉を触り出した。銃を捨ててひたすら喉と胸を触っている。

 好機到来と、里見はすぐに胸の花のネックレスを口に持ち上げる。

「連結に二人、前車輌に一人走りました、今です」

 小声で呟く。同時に長田は駆けだした。長田が連結部に飛び込むと、黒服二人は驚きと共に振り向く。銃口を向けようとして、突然手から銃器が消えた。一人が手元を確認する合間に下から顎を蹴り飛ばされた。残された一人ももう一回転し片方の足を顔に叩きつけられる。壁に衝突した。里見は頭を押さえた覆面の靴からひもを抜き、両手首を一つにして固く縛る。もう一人も手早く縛り、靴紐を抜く、動けない二人から拳銃を抜き、空に散弾銃が現れる。長田は空の散弾銃を掴み、拳銃と共にトイレを開けて中に放り込む。

 制圧したことを確認して、里見は立ち上がり長田の下へ走る。連結部を空けると感心のため息を吐いた。長田は怪訝な目をしている。

「あと何人だ」

 里見が目を巡らす。三号車の一人は二号車に移動していた。重い足取りで一号車へ歩いている。

「二号車に一人。一号車で二人……何故か、お互いに銃を向け合ってます」

 直ぐに長田はドアを閉め前車両に飛び込む。里見も追い、騒ぎ立てる乗客に「すみません!」と叫びながら前方車輌に飛び込む。二号車では足音を立てないように走り、振り向いた男の背中から散弾銃が消えた。重さの消えた背中に振り返る。視界から長田が直ぐに長い足でたたき込み、椅子に倒れた男を靴紐で拘束する。先程あった場所に現れた散弾銃を里見に渡す。長田は走り、扉の側に張り付く。扉のガラス越しには一号車が見え、男の背中だけがガラスに張り付いている。長田は里見を見た。里見は手慣れたように銃を解体し、銃弾を椅子に落とす。残った銃身をへし折り、椅子の上に静かに置いた。里見は長田同様に扉の側に張り付き、透視し扉越しに様子を伺う。

 一号車の中では覆面二人が何故か銃を向け合っている。入り口近く通路から散弾銃を直立して向ける一人、もう一人は夏目さんがぐったり意識を失っている横で、拳銃を両手で押さえ、中腰で不動な一人。手前の方は散弾銃と拳銃、もう一人は拳銃のみを持つ。里見は一見して、圧倒的に実力では奥の拳銃のみの方が上だと確信する。ふらふら引き金に手をかけたり放したり、軸がふらふらぶれている。銃を扱うことに慣れていない振舞いに、自分でもどうすればいいのか分からないのだろうと推測する。

 対照的に奥の奴ははっきりと引き金から指を放し、相手の行動を待っている。奥の奴は安定感と自信を身にまとっている。車両全体を見渡し、他に銃器や危険物が無いことを確認し、里見が口を開く。

「二人が銃を向け合っています。奥の奴が拳銃を向けて、手前の覆面が散弾銃を奥に向けている。夏目さんが散弾銃の直線上に居ます。奥の奴が手練れで手前の奴が、手慣れていない様でふらふらしています」

「……夏目の安全確保が第一だ。車輌入り口からら散弾銃と、拳銃が視界に入るか?」

 里見を入口視点で中を見る。銃身の長い散弾銃と黒く重い拳銃は注意すれば見えた。長田視点に上げる。一九六センチの高身長で車内を俯瞰可能だ。

「いけます」

 確信を持って呟く。長田は神妙に頷く。

「了解。俺は手前の奴を張り倒す。その後確保しろ。俺は奥の奴を押さえに行く。拘束を終えたら、夏目を隔離しろ。銃の方も持って行け」

「わかりました」

 里見の視点を手前の覆面に絞る。覆面の震える指で銃の引き金に手をかけ、離れた。

「今です」

 長田が扉を開け、接続部を走り一号車の扉を開ける。男が振り向いた瞬間、二人の手から銃が消えた。空を切る手に驚愕した覆面に長田が鳩尾に空手の一突きを発食らわす。体を折ってその場に倒れ込む。それを見た里見も走り出す。一号車に入り、扉側に転がる覆面に足が引っかかる。転がりそうになりながら、長田の方に目を向けた。

もう一人の覆面は夏目を背にして通路に追い込む。長田は長い腕で鋭い突きを放つが避けられる。瞬発力の高いそいつは軽くいなし、ボクサーのようにファイティングスタイルを取っている。足下の男がうめく。眺めている訳にもいかない。そろそろ拳銃が戻る。奪われる訳にもいかない。

 里見の耳にうめき声がした。足元の覆面からだ。思い出したように足下の男を手に持ったベルトで手を後ろ手に拘束する。拳銃を奪い、空に戻ってきた散弾銃を受け取る。そのまま前方に走る。男はこちらを向いた。覆面は空に現れた拳銃を取ろうとして、すかさず長田に視覚から胴を横から蹴り飛ばされた。頭から座席に突っ込み、立ち上がろうとしたところを押さえつけられ、長田が上からのし掛かる。

里見は拳銃を取り、手の中の銃の銃弾を全て椅子に落とす。椅子の中心に虫のように溜まる銃弾。さっさと全部吐き出させ、空になったところで床に放り、里見は夏目の前に立つ。

 夏目は性別の分からない顔からぐったりと力が抜けて項垂れている。病的に白い顔を上げ、胸に耳を付ける。一定の心音がする。里見はまだ生きていることに安堵した。体を動かして怪我が無いか軽く診るが、夏目の流した血と覆面の返り血で負傷が明確にわからない。

横から床に叩きつける重い音が車内に響く。音の方向に里見が目を向ける。入り口付近で素面の男が顔に掌底を叩きつけられていた。意識が一瞬飛んだのか、目の焦点が合っていない。今のうちにとばかりにのし掛かっていた長田が素早く体を離す。仰向けに倒れていた男を回転させうつ伏せにし、後ろ手に持っていた紐で拘束する。

 里見は背後の死体と夏目を交互に見遣る。里見は自体が一応収束したことを確認し、長田に指示を仰いだ。

「長田さん、夏目さんが気絶しています。状態が分からないので、診察して貰っていいですか。その間に俺は覆面を回収してきます」

「……車掌室を放棄するつもりか」

「言い忘れてました。そっちは運転手以外殺されています」

「先に言え!」

 長田は目を見開いて激怒した。だが、気が抜けたように肩の力が少し抜けて肩が下りている。短時間の戦闘だが、銃を含んだ戦闘に緊張感が張り詰めていた。

「とりあえず、生きている奴をまず隔離してから運転席の方に行きましょう」

 長田はうんざりした顔をした。長田は里見の倫理観がおかしいのはよく知っていたが、今この状況ではある意味気楽だった。重い雰囲気を作られても疲れるからだ。軽い態度の里見が自分が見たものに関しては仕事中に嘘をついたことはなかったことを経験から良く知っている。長田はくたびれた様子で次の行動を指示した。

「さっき倒した二人を連れてこい。銃も忘れずに持ってきてくれ。持ってきたら真ん中あたりの椅子に座らせて置いてくれ。終わったらこいつと入り口の男を座らせろ。その後はまた指示をだす。いいな」

「はい!行ってきます!」

 里見は元気に走り出す。今のところ内部分裂の理由は分からないが、とりあえず事件は収束した。二人は少しだけ気が楽になっていた。

 事態にそぐわない軽妙な表情の里見に、やばいものを見る目で乗客がこちらを見る。里見は気にせず、連結部に入る。覆面二人は去ったときとほぼ同じ体勢で倒れていた。あー、うーと二人とも唸っている。喉を床にこすりつけたり、頭に叩きつけたりしている。立ち上がるよりも喉や耳の相手に集中している。里見は首をひねる。反抗しないのは有り難いが、一体どうしたことだろう。まあ後で分かるか。里見はとりあえずトイレの扉を開く。拳銃二丁と、散弾銃二丁、そして、窓際に見当たりのない金属箱が置いてあった。中を透視すると、時速80キロに小さな銀板のついた速度計、地図の画面が開き東京駅への経路を示したスマートフォン、ダイナマイトが配線と共に入っている。一瞬で爆弾と理解する。

 里見は手早く銃を解体し、銃弾をポケットの中に入れ、その後二人を持ち上げてさっさと走って戻った。一号車に入るなり、思いきり叫んだ。

「長田さん!爆弾が仕掛けられています!」

 長田は額から血を流す男を持ち上げていた。一瞬目を見開いて、予想通りと行った納得した表情になる。むしろ驚愕した表情を浮かべているのは隣の男だ。

「そうか。夏目の方の診療は終わったから、そこに倒れている奴をこのあたりに座らせておいてくれ」

 長田は手に持った男を側に座らせた。里見は言われた通り、男の後ろの列に二人を並べる。二人はやはり何故か呻いている。入り口の奴もすぐにもちあげて、二人の後ろに座らせた。生きている四人を回収し、里見は長田に再び指示を仰ぐ。

「倒れていた連中はこれで全員です。あ、爆弾、どうしますか?」

「すぐに外部に連絡して、中身を説明しろ。中身はどんなものだった?」

「ええと、ダイナマイトと、時速80キロに銀箔のついた速度計と、東京駅を目的地にしたスマホと配線です」

「それ以外は無いか」

「多分……知識が無いのでもしかすれば見落としがあるかもしれません」

「そうか、言われた仕事は終わったな」

「はい。銃は破壊して、銃弾は回収しました」

「そうか。とりあえず、他に武器はあるか?」

「運転室の拳銃散弾銃それぞれ一丁だけです。今運転室には気を失った車掌二人だけが生きています」

「なら安全そうだな」

「夏目さんはどうでしたか」

 長田が目を細めて、睨みつけるように里見と目を合わせる。

「お前、薬飲ませたな」

 里見はあっけらかんと答えた。

「はい。それで落ち着きましたので、ほぼ確実に能力が発現しています。能力の安定のために持ってたんですが、役に立ってよかったです」

 数秒見つめ合っていたが、根負けしたように長田は目線を逸らした。

「目の前で殺されて、気絶したらしい。怪我はないが、能力が分からないから放置も出来ない。……本人には申し訳ないが、後方の座席を倒して寝かせておいてくれ」

「長田さんはどうしますか」

「顔面殴った奴の診察をする。夏目を移動させ次第、車掌室に行って運転手を起こす。お前はその間に生きている犯人を監視しつつ外と連絡を取ってくれ」

「はい」

 里見はすぐに夏目の元へ向かう。やはり意識はない。目の前の遺体が頭から血を流している。長田さんが抗戦した奴が撃ち殺した。相当ショックを受けたこととあまりの不幸に同情しながら両腕で持ち上げる。最前列の男の傷当てをする長田の側を通り、二番目に後ろの列の通路に座らせ、背もたれを倒す。

「寝かせました」

「ありがたい。じゃあ、行ってくる」

「はい」

 長田は走って前の扉に消えていった。里見は男たちの側に立ち、ネックレスを操作する。電波が繋がるまで数秒のラグがある。待っている間に、ふと顔に大きなガーゼが張られた男の顔が朱鷺と気づいた。

「あれ、朱鷺だ。なんで居るんだ」

「朱鷺?」

「お前だよ」

「……は?」

 拘束された男は怪訝な顔をした。もしかして、里見は今回の潜入捜査について思い出した。

「お前は朱鷺じゃない?」

「何言ってんだ。……あ?声が?」

 後ろの二人と同じようにあ、う、と呻き始めた。里見はある可能性に思い当たる。

『聞こえるか!?』

 ほぼ同時にネックレスから声がした。犯人たちとは全然違う低い声、里見に聞きなれた上司の声だ。

「里見です、はい、聞こえます」

 言いながら一瞬だけ三人の覆面を透視する。三人とも朱鷺の顔をしていた。多分声も同じだ。焦りと困惑を含んだ上司の声がネックレスから響く。

『列車内はどうなっている!』

 里見は犯人たちの顔を見ながら冷静に返答する。

「列車ジャックは犯人同士の内部分裂で二人と朱鷺が殺されました。生き残った犯人を捕らえて一旦列車ジャックは収拾がつきました」

『そうか、それは良かった』

「でも、爆弾が仕掛けられています。多分、速度が一定以上下がったら爆発するものと、もしかすれば他の条件で爆発します」

「そんなの知らねぇぞ!」

 犯人たちが叫び、顔を見合わせている。最前列の奴もこちらへ振り向いた。里見は暴走しないか犯人を注視しつつ、ネックレスの会話に戻る。

「金属箱の中にはダイナマイトと、スピードメーターと、東京駅を目的地に示したスマホが入ってました」

『……本当か?』

「はい。犯人たちの反応から、当人たちも知らない様です」

『……列車ジャックの計画外か』

「そのようです。それで、おそらく一番の問題ですが、犯人が全員朱鷺の顔と声をしています」

 息の詰まる音がした。今回の朱鷺の関わった七年前の乱射事件に通じるものがあったからだ。里見は現時点での推測を述べる。

「能力者関係の事件です。恐らく、七年前の乱射事件の関係者が居ます」

 瑠璃茂雄の偽造疑惑があり、真犯人逃走中の可能性がある七年前の事件。奇しくも関連人物が混ざっていた。里見は早口になるのを抑えて静かに続ける。

「そいつが爆弾を取り付けた犯人の可能性があります」

『……絶対に生かして戻せ』

 マイク越しに重々しく命令する。七年前の事件の最重要人物だ。上司にとって放置しておくわけにもいかなかった。

 里見は上司に夏目に関して言うべきか悩んだが、犯人たちの耳に入らない場所で話すべきだと決めた。能力者について知っているなら警戒されても困るからだ。里見は通信に戻る。

「はい。また、後で長田さんに話していただくことが……あ、長田さんが戻ってきました」

 長田は渋い顔になって戻って来た。隣に顔が少し腫れた車掌がいる。文字通り叩き起こされたのだろう。

『犯人は確保されました。事態の収拾まで自身の席でお待ちください』

 隣の列車を透視すると、乗客は一体何が起きたのか分からないようだ。お互いに顔を見合わせたりしている。能力を解除して、長田さんと向き合う。

「連絡の方はいいんですか」

「今している。こいつらの証言を直接外に伝える」

「お前た、ん」

 一番後ろの犯人が苦々しげに語りかけ、どもる。先程と同じく、また咳払いをし始めた。

「あ、そうだ見てください」

 里見が前でゴーグルとマスクを取る。長田がしかめ面になる。

「勝手なことをす」

 言葉が途切れる。朱鷺の顔が現れたからだ。

「ほらー、朱鷺ですよ」

 長田が絶句する。喉から上の骨格が全て朱鷺を再現している。もしかしたら朱鷺かもしれない人物に明らかに動揺していた。髪型も同じで、どこからどう見ても朱鷺だった。

「安心してください。口の中にも胃の中にも爆弾は入ってません」

「おい、お前、あ!?」

 隣の覆面も声を出すがまた咳払いする。里見は同じように無理矢理ゴーグルとサングラスを剥がす。また朱鷺だった。また後ろの男も脱がすと朱鷺だった。体格も似て、身長も似て、髪型も同じで、服は画一。銃殺の犯人以外、完璧に誰が誰か見分けがつかない四人が並ぶ。

 男たちは顔を見合わせて混乱していた。

「どうなっている!?」真ん中窓側の男。

「俺の声じゃない!?」真ん中通路側の男。

「リーダーはどうしたんだ!ここに居るのか!?」最後列の男。

 声も顔も全員同じものになっている。

 銃殺の犯人だけが石のように黙っていた。長田さんがわざとらしく咳をして、騒がし中大声で叫ぶ。

「後にしろ!まずは爆弾の処理だ!誰か爆弾について知らないのか⁉」

 突然の大声に朱鷺たちは黙った。朱鷺たちは恐る恐る答える。

「爆弾、俺は聞いてないぞ」真ん中の通路側の男。

「私もだ」真ん中の窓際の男。

「俺も」最後列の男。

 最前列の犯人だけは黙っている。

「おい、お前はどうなんだ」

 長田が威圧する。男は無表情のまま答える。

「狂言だと思っていたが、本当に爆弾があるんだな……俺は知らん」

「嘘をつくな!」

「本当に知らん。俺は司を殺せとだけ頼まれたんだ」

「司とは誰だ」

「リーダーの名前だ。俺が撃ち殺した奴だ」

「誰に頼まれた」

「瑠璃に」

「やけにあっさり吐くな……瑠璃?」

「ああ」

 長田はさらに顔を渋くした。今瑠璃は刑務所の中に居る。あるとすれば裁判所との行き来だけで、それも監視付きである。外出も脱出も不可能な瑠璃が依頼できるはずがない筈だった。

 長田はさらに問いただしたかったが、他に犯人が居る可能性を懸念して後にすることにした。

「……本当かどうかは分からないが、冷静に話す必要があるな」

「そうだな」

 冷静な犯人だと長田は不信感を抱いた。だが先に里見への指示を考える必要があった。口に手を当て逡巡し、不思議そうな顔で空を見ている里見を呼ぶ。

「里見」

「はい」

「運転室の手前の出入り口に覆面の遺体がある。顔を見てきてくれ」

「……全員ですか?」

「ああ。触れるのが難しいなら透視でいい」

「わかりました」

 里見は走って運転室の手前に行く。手足をまっすぐに伸ばした覆面の男が寝ていた。里見は頭の側に座り手をあわせる。それからヘルメットを取り、ゴーグル、ガスマスクを取った。

朱鷺だった。

 明かりと扉の窓から差し込む陽に当てられて、彫の深い口鼻に陰影を描いている。ゴーグルで顔を軽くこすったが、引き延ばされた皮膚は話すと元通りに皺を作った。マスクをかぶっていないことを確かめる。

 里見は立ち上がり、一号車に戻る。入ってすぐの頭から血を流す遺体の側に座る。ヘルメットとゴーグルの隙間を狙って銃弾を差し込まれていた。顔についているものを上手く取ると、やはり朱鷺だった。

 里見は振り返って叫ぶ。

「二人とも朱鷺でした!」

 犯人たちは絶句した。長田は頭を抱える。

「おい、どうなってるんだ……!?」

 窓際の男が叫ぶ。だが、誰も答えることは出来ない。銃殺した犯人はしてやられた、という表情をしている。

 スーツを着て殺されたのも朱鷺、見はりをして殺されたのも朱鷺、夏目と対話して殺されたのも朱鷺、殺したのも朱鷺、生き残ったのも朱鷺。此処にいる全員誰が誰かわからなくなっていた。

 里見は現実味無くその光景を眺めていた。たたんたたんと揺れる電車だけが時間を体現し、外の風景によってここが現実空間であることを主張していた。

次の大月駅を通り過ぎたところで、夏目が目を開いた。

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