第4話
僕は走った。
疾走感と空腹感は交互に僕をつき動かす。
そこに何があるというわけではないし、いつも歩いてスタジオと家の途中の寂れた商店街を僕は疾走する。
アーケードの下に、おばちゃんの洋服を着たマネキンが見えたがシャッターを下ろそうとするおじさんも見えた。
「あ! ちょっと待って。ください」
「なんだい、にいさん。うちは女の服しか売ってないよ」
「いや、いいんですよ。帰るのにちょっと寒いからナイロン製でも何でもいいですから、ないですか? 羽織るもの」
おじさんは半分下ろそうとしたシャッターを少しあげてくれた。
「これなんか、どうかな、色は赤いけどサイズはいいじゃない」
真っ赤な、スカジャンの背中には黄色いハイビスカスの縫い取りが張ってある。どう考えても僕の顔とは違和感が……。でも暖かそうだ。ないよりはましだと思われる。
「きっとこんな派手なジャンバーはこんな下町じゃ売れないよね。お兄さんは若いからさ。赤もいいじゃないの? 安くしておくよ。買っておくれよ。3000円でどう」
値段のフダを見ておじさんはニヤッと笑った。つられて僕も笑った。黒いシャツに合う,案外。僕は消費税もこみで千円札を三枚渡すと値札を切ってもらい店内で羽織ると店を出た。
「信治、かっこいい! よく似合っている」
きっと悠奈はそう言ってくれるはずだ。僕は帰路を急いだ。更に惣菜の前でコロッケと、ポテトサラダと買うと、商店街の先の電車に飛び乗った。僕も好きだが悠奈はポテトサラダを好みよく作ってくれた。どの店で買っても、悠奈の味と同じではないし、きっと僕が作っても同じサラダができるはずはない。
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