第6話 智樹、心の想いに・・・

ある日の事。



「あ、あの!」



他校生の男の子から呼び止められる。



「はい」


「あの…俺、菜夏松 荘也(ながまつ しょうや)って言います!あなたを見掛けて可愛いなぁ~と思って…あの…俺とお付き合いして下さい!」



ドキッ



「ゆっくりで良いので」


「…私なんかで良いの?つまんないかもしれませんよ」


「付き合ってみないと分からないし」


「…でも…」


「そうか、分かりました。時間あげますので、またトライします!」




そう言うと男の子は去って行った。


その後、男の子は何度も告白してきた。


私は彼の一生懸命さにOKの返事をするのだった。





ある日の事。



「菜月、もう少し大きく音出せない?」


和佳菜が言った。



「えっ?」


「私的には、もう少し大きい音が欲しいんだよね」


「…分かった」




そして、演奏するも




「あー、駄目駄目」と、和佳菜は演奏を止めた。



「…ごめん…」と、私は謝る。


「別に良いけどさー、一先ず休憩しよう」


和佳菜の一言で各々休憩をする。



「…っ…」


「…菜月ちゃん?」



様子を見に来ていた智樹が私の異変に気付く。



「菜月ちゃん、どうかした?」



ギクッ


「う、ううん!大丈夫!疲れ……」



グイッと私の両手を掴む。



「…菜月ちゃん…これ…」



私の両手はスティックで豆が出来、潰れかけているのもあり痛々しい両手だった。



「平気…」


「そんな訳…この手じゃ無理だよ」

「良いの。みんなに迷惑掛けたくないし」

「…菜月ちゃん…」



「さーて、すっかな?」と、麻沙斗。


「えー、もう少し。だってボーカルとキーボードだよ」と、和佳菜。



「お前が両方したいって言うからだろ?最初から我が儘言ってたのお前だし」


「だって、両方なんて凄くない?」


「凄いとか凄くないとかじゃねぇし。要は出来るか出来ないか?だろ?出来るから両方してんだろ?だったら、もっとスタミナつけるかして休憩時間で回復出来るまでなれよな」


「麻沙斗、きつい事いうなぁー」と、和佳菜。


「幼なじみに気ぃ使う理由ねえな。特にお前は」


「酷っ!」


「まあまあ二人共」と、友飛。



「ほらっ!するぞ!」

「はいはい」


「ねえ、俺にドラムさせてくれない?」



智樹が、言った。


そして話を続ける。



「俺がドラムする代わりに、和佳菜ちゃんボーカルだけにして菜月ちゃんキーボードさせてみない?みんな見てると凄い楽しそうだから俺も参加したくなっちゃって」


「それは構わないけど。だけど、菜月に出来るわけ?」と、和佳菜。


「させてもいないのに、そういう言い方は良くないよ和佳菜ちゃん」と、智樹。


「それは……」と、和佳菜。


「…第一……菜月ちゃんに、このままドラムを現時点で続かせる訳にはいかないと俺は思うけど!?」



智樹の話し方に一瞬、変化があり口調が代わった。



「智樹…良いよ…」


「駄目だよ!」



グイッと私の両手を掴みみんなに見せる。



「菜月…お前、その手…」と、麻沙斗。


「菜月、どうして言わないの?」と、友飛。


「この両手で続かせるのもどうかと思うけど?それでも…菜月ちゃんにドラムさせる気!?」



「………………」



「みんなに言えなくて痛い思いしながら我慢して無理して……幼なじみだからって何でも分かってるようで分からない事とか異変に気付かない事あるって事だよ!」


「……菜月……ごめん…気付いてやれなくて」


友飛が謝る。



「菜月…お前…遠慮しないで言えよ!智樹の雷が落ちたじゃねーか!…悪かったな…」



麻沙斗が言った。



「菜月…ごめん無理言って…キーボードやってもらえる?」


和佳菜が言った。



私達は演奏を開始した。




その日の終了後、私は智樹と帰る。



「智樹…ありがとう」


「えっ?お礼なんて良いよ。辛そうにしてるの分かったから」


「そっか…でも、ありがとうって言いたいから」


「そう?」


「うん」


「…恋も…こうして気付けば良いんだけど…」


「えっ?」


「俺、こう見えても恋愛になると鈍感で…自分の想いに気付くの遅いみたいで…。好きな人…失った時、気づいちゃって……。本当、馬鹿なんだよね…」



「男の子も女の子も…それは一度はあると思うよ」


「えっ?」


「好きって気持ちは…離れて気付く想いとか、失って気付く想いとか、他人のものになった時とか…人間は…そういうものだと思うよ」


「菜月ちゃん…」


「ドキドキしたり、ドキッとしたり恋愛は難しいから。そういう相手が現れたら今度は自分の想いに素直になれば良いよ。きっと気付くはず。恋愛の神様が教えてくれるよ」


「恋愛の神様か…じゃあ、菜月ちゃんはピュアな反応するから俺、気付くかな?」



微笑む智樹。


ドキッ



さらっと期待させるような言葉を言う智樹。


しかも、その仔犬のような癒し系の可愛い笑顔はズルすぎる。



「……………」



「何?」



目を反らす私。



「菜月ちゃん?」



私の顔をのぞき込む智樹。



ドキッ



「ち、近い…智樹…。カッコイイから顔まともに見れないよ……」


「じゃあ、菜月ちゃんに目隠し!」



グイッと抱きしめる。



ドキッ


私の体はすっぽりと智樹の胸の中に収まる。



「ちょ……智樹…」

「目隠しじゃなくて顔隠しだね!」




だけど凄い落ち着く自分がいた。


でも胸はドキドキ加速している。




≪私……このままだと≫

≪智樹の事…好きになりそう……≫





先の詠めない不意打ちは


ドキドキしっぱなしで


私の心を夢中にさせ


気付かないうちに


虜にしていく





「智樹…」


「何?」


「幼なじみだよね」

「うん、一応幼なじみ」

「一応って……」


「だって、こっち(日本)にいないから、幽霊みたいな存在の幼なじみだよ。突然帰国してみんなの前に現れるから幽霊みたいでしょう?」



「幽霊って……」




私達は抱きしめ合った体を離す。



「菜月ちゃん、俺の胸の中にすっぽり収まっちゃうね?可愛い~♪ 可愛すぎて、つい、ぎゅうっって抱きしめたくなる♪」


「それは恋人同士になったらして!」

「友達とハグするよ」

「ここ日本だよ。あっ!後、智樹、菜月で

良いよ!」


「えっ?」


「私は智樹って呼んでるから、菜月で良いから」


「分かった!じゃあ、今日から菜月ちゃんじゃなくて菜月だね」



ドキッ



恋人同士じゃないけど


名前で呼ばれると


違う意味で胸が大きく跳ねた




私達は色々と話をしながら帰るのだった。












































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