エピローグ

▼ウルアラ

 一旦、回想を挟む。場所はミグランス城謁見の間。ミグランス王の前に異時層ソイラが跪かされている。

ミグランス王「...判決を言い渡す。其の者は兵士としての権利を剥奪。及び厳重な監視下のもと流刑地での復興作業に従事するものとする。」

 回想終わり。ディアドラの墓の前に、異時層ソイラ、ミグランス王、ラディアス、アルド、ソイラ、兵士が数名がいる。

異時層ソイラ「流刑地にしては、のどかですねえ。これで私の気が変わるとでもー?」

ミグランス王「流刑地はここより更に南だ。お前の気が変わるかは分からぬ。...しかし、お前にはここで真実を知る権利があるのだ。」

異時層ソイラ「はてー?真実ですか?」

ミグランス王「そうだ。...アナベルとはずっと昔にこの地で死んだ娘のこと。そして、我々がアナベルだと思っていたのは、その妹のディアドラだ。そして、魔獣城では祈りの聖剣にまつわる戦いがあった...。」

 暗転して時間経過。

異時層ソイラ「...私の知るアナベル様は、本物のアナベル様を助けるために魔剣に導かれて旅立った?ラキシス様は停戦のために魔獣城に向かい、ラディアスをかばって死んだ?...私を騙すには話が荒唐無稽すぎませんかー?」

ミグランス王「これが真実なのだから仕方あるまい。それに、お前は言われたからといって鵜呑みにするような者ではないだろう?...真実かどうかは、これからお前が確かめればいい。」

異時層ソイラ「真実...?これが...?まさか...。」

ミグランス王「さあ、墓参りも済んだ。我々は出発するぞ。」

兵士「はっ。」

 去ろうとする異時層ソイラ、ミグランス王、兵士。それを呼び止めるラディアス。

ラディアス「あっ、待ってください。ソイラ様!」

異時層ソイラ「...?」

ラディアス「この度は...、姉が大変ご迷惑をおかけしました...。私はソイラ様の復帰をお待ちしております。」

異時層ソイラ「...私には何のことだか分かりませんよう。あなたも、ただの裏切り者ではないようで。まあ、ラキシス様の墓守として体には気をつけることですー。」

ラディアス「はい、ありがとうございます...。」

 一拍置いて。

異時層ソイラ「...もう一人の私。」

ソイラ「はいー?」

異時層ソイラ「私は幸運の旗を無くしてしまいましたが...。あなたに出会えたことは幸運だったのかもしれませんねえ。まだ私の怒りは燻っていますが...。いずれはこの言葉を口にする日が来る気がするので、いま言っておきますよー。...私を止めに来てくれて、ありがとうございますー。」

ソイラ「あらー。」

ミグランス王「...ふっ。」

異時層ソイラ「陽のあたる道を歩いていられた世界もある...。それが分かっただけで少しは気が紛れましたー。両親が健在なら、せいぜい親孝行することですー。」

ソイラ「はいー。あなたも陽のあたる道に戻れますよー。その日までどうぞお元気でー。」

 異時層ソイラたち去る。

アルド「これで大丈夫なのかな...?」

ラディアス「元々は思慮深くお優しいお方だ。それに腕も立つ。...それは、そちらのソイラ様を見れば分かる。」

ソイラ「お褒めに預かり光栄ですー。」

ラディアス「いまの王国には貴重な人材だ。王もそれが分かっていらっしゃる。だからこそ、姉さんが狂わせた運命が元に戻るのを待ちたいのだ...。」

アルド「そうか...。そうだな。きっと戻ってくるさ。陽だまりの英雄として。」


▼潮騒の森

 時層の穴の前にアルド、ソイラ、ジークがいる。

ジーク「行っちゃうんだね、二人とも...。」

アルド「ああ、そろそろ自分たちの世界に戻らないとな。」

ジーク「できればついていきたいところだけど...。村を復興させないといけないから、僕はこの世界に残るよ。」

ソイラ「はいー。復興したら遊びにいきますよー。」

ジーク「ああ、歓迎するよ。」

ソイラ「...アルドさん。少しだけ用があるので先に行っていてもらえますか?すぐに追いつきますので。」

アルド「ん、そうか?じゃあ、先に行くよ。じゃあな、ジーク!こっちにもたまには遊びに来てくれよ。」

ジーク「はい!本当にありがとうございました!」

 アルド去る。一拍おいてソイラとジークが抱き合う。

ソイラ「それではどうかお元気で。」

ジーク「君も元気で。また会ったときに君だと分かるように、君は陽だまりの英雄のままでいて欲しい。」


▼ミグランス城詰所(異時層ではない)

 ラキシスと兵士が話している。

兵士「そういえば、王立劇場で新しい劇が人気なのをご存知ですか?」

ラキシス「私はそういうのには疎くてな。どういう劇なのだ?」

兵士「人間と魔獣が暗黒大陸で起きた事件に巻き込まれながら、手を取り合い生き延びるという内容です。」

ラキシス「ふむ...。そのような劇が流行るとは、世の中も少しずつ変化しているのだな。今度、娘と見に行ってみようか。」

兵士「ラディアスお嬢様もきっと気に入りましょう。...それで、この話には奇妙な続きがありまして。」

ラキシス「む...?」

兵士「この劇は、どこからか流れ着いた絵本が原作になっているそうです。それで、その原作に出てくる人間というのか、陽だまりの英雄というのです。人物像もソイラ様そっくりだとか。」

ラキシス「何...?」

兵士「更にその絵本には、《魔獣王も大絶賛!》という帯が付いていたとか。」

ラキシス「魔獣王が絵本を?...ううむ、全く想像できんぞ。」

兵士「そんなことが起きてまして、相変わらずソイラ様の名声は高まっているようです。」

ラキシス「それで、ソイラはどうしているのだ?」

兵士「はい。街のご婦人に頼まれて、畑に水やりをしているそうです。」

ラキシス「なぜそれで名声が集まるのだ...。」

兵士「かの者は、幸運の旗を持つと言います。その力でしょうか?」

ラキシス「そうかもしれないし、そうでないかもしれない。一つ言えるのは、何が幸運で何が実力なのかは、誰にも分からぬということだ。」

兵士「ははあ... ?」

ラキシス「もう一つ言えるのは。我が騎士団は人材に恵まれており、私は週末、娘と劇を見に行けるだろうということだな。」

 二人が笑う。暗転して場面転換。ユニガンでソイラが水やりをしている。

ソイラ「ふんふんふーん♪水やりの任務完了ですー。今日もいい天気ですねえ。次はお昼寝の任務ですかねー。すぅ...すぅ...。」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

陽だまりの英雄と血溜まりの英雄 @tetsuya00

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る