第2幕後半〜第3幕

▼古戦場跡

 崖の上にアルド達がいる。伏せて様子を見ている。

アルド「いたぞ。この世界のソイラの部隊だ。」

 離れたところに大勢の兵士たち。異時層ソイラの姿はない。魔獣は全て捕まっている。その中には魔獣王もいる。

ソイラ「私の部隊よりも遥かに大きいですねー。」

ジーク「いた!父さんと母さんだ!爺ちゃんも!」

アルド「それにあれは...、魔獣王!?」

 兵士が魔獣に手をあげ、嘲笑う。

ジーク「くそ...、なんてことを...!」

アルド「堪えるんだ...。この数を相手に、俺たちにできることはない。チャンスを待とう。」

ジーク「だけど、このまま見ているわけにも...!」

ソイラ「そうですねえ...。今にも処刑が始まりそうですう。」

アルド「何か手はないのか...!」

ソイラ「うーん、そうですねぇ...。」

アルド「...それにしても、何か違和感があるな。あの部隊にあるべきものがないというか...。」

 兵士がジークのお爺さんを殴る。それを止めようとした両親も殴られる。兵士が剣を向ける。

ジーク「...もう限界だ。」

ソイラ「ジーク?」

ジーク「僕のためにここまで連れてきてくれてありがとう。ここまでの旅は本当に楽しかった。」

アルド「まさか...。ジーク、ダメだ...!」

ジーク「結局、僕たちにできることは何もなかった。せめて、君たちは無事に帰るんだ。この惨状をラディアスさん達に伝えるんだ。...僕は魔獣として、このまま帰るわけにはいかない!」

 ジーク、崖から飛び降りる。崖下から発光。

ソイラ「ジーク!!!」

 カメラを兵士達に。

兵士「ん?何かが来るぞ...?」

 ジークが兵士を殴り飛ばす。

ジーク「うおおおお!!!」

爺ちゃん「ジーク!?」

ジーク父「帰ってきたのか...!?」

ジーク「よくもッ!よくも、みんなを傷付けたなッ!!」

 ジーク、暴れ回る。カメラをアルド達に戻す。(背後が見えないようにアップで映す)

アルド「めちゃくちゃだ...。」

ソイラ「...アルドさん。違和感の正体が分かりましたよ。」

アルド「ん...?」

ソイラ「この世界の私が...、あの部隊にはいないんですー。」

アルド「なんだって!?」

 カメラを引く。背後には異時層ソイラ。

異時層ソイラ「ようこそー。そして、さようなら。永遠に。」

 槍で薙ぎ払い、アルド達は崖に落ちる。

アルド「うわあああ!!!」

ソイラ「きゃあああ!!!」

 間を置いてから。

異時層ソイラ「ああ、素晴らしい静寂ですう。世界がより綺麗になりましたー。さあ、この大陸での最後の仕事を始めましょうか。」

 暗転して時間経過。崖下のアルド達。光に包まれており、それが消える。

アルド「...大丈夫か、ソイラ。」

ソイラ「はいー。持ってて良かった、精霊樹の葉ですー...。」

アルド「死ぬかと思った...。むしろ、一度死んで生き返った気分だ...。」

ソイラ「こんな経験は二度としたくないですねえ。」

 暗転して時間経過。異時層ソイラの部隊を映す。異時層ソイラが部隊に戻ってきているが、魔獣たちは全員無事。ジークが捕まっている。カメラをアルド達に。アルドとソイラが姿勢を低くして様子を伺っている。

アルド「よかった、まだ皆んな生きている。」

ソイラ「ジークは捕まってしまったみたいですねえ。」

アルド「それにしても、状況は変わっていないぞ...。折角生き延びたのに、俺たちは何もできないままか...?」

ソイラ「...それなんですが。ひとつ方法を思いつきましたー。」

アルド「本当か!?俺たち二人だけで、この状況を覆せるのか!?」

ソイラ「はいー。ですので、覚悟を決めていただけるとー。」


▼古戦場跡

 異時層ソイラの部隊。捕まっている魔獣と魔獣王。

異時層ソイラ「さあ、魔獣のみなさんー。そろそろお休みの時間ですよー。」

 兵士の歓声があがる。

魔獣王「くっ...。」

魔獣「申し訳ありません、王よ...。私達が捕まってしまったために...。」

魔獣王「いいのだ...。民無くして王無し...。あとはアルテナが上手くやるだろう...。」

ジーク「ここまで...、なのか...。」

ジーク母「ああ、ジーク...。」

ソイラ「ちょおおおおおと、待ったですー!」

 アルドを捕らえたソイラが堂々と歩いてくる。

ジーク「ソイラ!?アルドさん!?」

異時層ソイラ「殺して差し上げたと思ったのですがー。しぶといですねえ。」

兵士「ソイラ様が...、二人!?」

ソイラ「みなさんー。その者は偽物ですー。魔獣王を解放すべく、私になりすまして部隊に戻ってきたのですー!」

兵士「なんだって!」

異時層ソイラ「まあ!なんてふてぶてしいのでしょうー!」

 ソイラ、アルドを投げ捨てる。その近くには魔獣がいる。

アルド「ぐあっ...。」

ソイラ「この男は本国からの刺客ですー。本国は魔獣と共謀し、私とその女をすり替える機会を伺っていたのですー。」

兵士「バカな...。こちらのソイラ様が偽物?そんなことがあるのか...?」

異時層ソイラ「あるわけないでしょうー!私が本物であいつが偽物です!」

 ソイラ、異時層ソイラに向かって駆け抜ける。誰も止める間もなく、異時層ソイラに槍を突き出す。

ソイラ「あなたが本物か、誰が分かるのでしょうー?」

異時層ソイラ「なっ...!?」

 激しい鍔迫り合いが始まる。激しい戦いで、どちらがどちらか分からなくなる。

兵士「しまった、もうどっちがどっちかわからないぞ!」

兵士「早くソイラ様に加勢せねば!」

兵士「しかし、万が一偽物の加勢をしてしまっては一大事だぞ...!」

ソイラ?「まったく、忌々しいですー!いい加減、どこのどなたか正体を現していただけませんかねえ!」

ソイラ?「あなたも私も、あり得た世界のもう一人の私ですー。」

 ソイラ同士の激しい戦い。

ソイラ?「いい加減に...、するですよおッ!」

ソイラ?「きゃあああ!!!」

 一方のソイラがもう一方のソイラを吹き飛ばす。飛ばされたソイラは起き上がれない。

ソイラ?「かはっ...!」

ソイラ?「そんな生っちょろい槍捌きで、私に勝てるわけないじゃあないですかー。あなたと私じゃ場数が違うんですよお。」

 兵士達から歓声が上がる。カメラをアルドに移す。アルドは捕まった魔獣に紛れている。兵士はソイラ達の戦いに釘付けで、アルドに気付いていない。

兵士「やはりソイラ様だ!ソイラ様が偽物などに遅れを取るはずがない!」

アルド「勝ったのはこの世界のソイラか...?だけど、いまはソイラを信じて俺にできることをするしかない...!」

魔獣「あの...、あなたは...?」

アルド「味方だ。縄は解いた。気付かれないように他の人の縄を解いてくれ。いざとなったら俺が守るから、今は少しでも多くの人を自由にするんだ。」

魔獣「分かった...!」

 カメラをジークに移す。

ジーク「ああ、ソイラ...。起き上がってくれ...。」

ソイラ?「くっ...。」

 勝った方のソイラが魔獣王の下へ。そして、槍を向ける。

ソイラ?「さあ、下らない戦いはここまでですー。覚悟はいいですか、魔獣王?」

魔獣王「くっ...。」

ソイラ?「これで...、終わりです。」

 ソイラ、槍を振るう。魔獣王の縄が切られる。魔獣王立ち上がる。

兵士「......え?」

ジーク「まさか...。君がソイラなのか...?」

ソイラ「私は覚悟を問いましたよ、魔獣王!今すぐ捕虜の皆さんを守ってください!私も加勢します!」

 魔獣王が大きな魔獣の姿になり吠え猛る。

魔獣王「状況は飲み込めぬが、この機を逃すわけにはいかぬ!」

 魔獣王が兵士達を薙ぎ払う。

魔獣王「下がれ人間ども!」

兵士「うわあああ!!!」

兵士「くっ、魔獣王といえども大分弱っているはずだ!」

兵士「錬仗兵器を出せ!応戦するぞ!」

 錬仗兵器が現れ、激しい戦いが始まる。

アルド「悪いが、戦える人はみんな、魔獣王と俺たちの援護をしてくれ!それ以外の人は全員避難するんだ!」

魔獣「うおおおお!」

魔獣「あい、任された!」

 魔獣が姿を変えて兵士達に立ち向かう。カメラをジークへ。ジークも魔獣の姿で戦っている。近くではソイラも兵士と戦っている。

ジーク「助けてくれた方のソイラを守るんだ!」

 遠くから異時層ソイラが魔獣を斬り伏せながら近づいてくる。

異時層ソイラ「よくもやってくれましたねえ!」

 異時層ソイラの槍が斬り伏せようとした時、ソイラがそれを受け止める。

ソイラ「一騎打ちが命運を分けましたねえ。」

異時層ソイラ「くっ...、なぜ私がこんな偽物なんかに...!」

ソイラ「あなた。弱い者いじめをして、自分が強くなったと思い込んでいたんじゃあないですか?」

異時層ソイラ「なっ...!」

ソイラ「その間、私はアルドさんと未来に行ったり過去に行ったり...。もっと強い敵と戦ってきたんですよー。だからッ、全然ッ、あなたとは場数が違うんですよお!」

 ソイラ、異時層ソイラを退ける。アルド来る。

アルド「魔獣は全員助けた!俺も加勢するぞ!」

異時層ソイラ「また、あなたですか...。なんなんですか、あなた達はー!もうたくさんです!ここで決着をつけてあげますよおッ!」

 バトル。勝利後。ソイラと異時層ソイラが激しく打ち合っている。次第に崖の方へ。

ジーク「ああ、また乱戦に...!」

アルド「あっ、崖に亀裂が!?」

ソイラ?「なっ...!」

 崖が崩れる。落ちそうになっている二人。アルド、ジーク、魔獣王が来る。

魔獣王「こちらはあらかた片付いた。あとはこの女だけだ。」

ジーク「ソイラ!」

ソイラ?「ジーク...、助けて...。」

ソイラ?「ダメです、ジーク...。そっちは偽物...。」

アルド「くっ...、ここまできて...。どっちが本物なんだ。」

ソイラ?「私ですう...。」

ソイラ?「いいえ、私ですう...。」

魔獣王「...判断を間違えれば大惨事になる。どちらも人間。ここで二人とも葬ろう。」

 ジークが魔獣王の前に立ち塞がる。

ジーク「待って下さい、王よ!片方のソイラは私たちのために命を投げ打って、助けに来てくれたのです!それを、このような形で見捨てていいはずがありません!」

魔獣王「...では、お前が選べ。」

ジーク「え...?」

魔獣王「魔獣族の未来はお前に委ねる。見事、我々を助けた娘を当ててみせよ。」

アルド「そんな...。」

ジーク「......分かりました。やります。」

アルド「ジーク!?」

ジーク「そうしなければ、ソイラは救えない...。」

 ジーク、ソイラ達の前へ。

ジーク「ソイラ...。」

ソイラ?「ジーク...。」

ソイラ?「ジーク...。」

 カットバック。道中でソイラが日向ぼっこをしてきたシーン。

ジーク「......そうか。微かだけど分かる...。」

ソイラ?「ジーク...?」

ジーク「王よ。こちらが我々を助けてくれた、陽だまりの英雄のソイラです。」

ソイラ?「ジーク!?私が本物です!分からないのですかあ!?」

ジーク「君はソイラじゃない。血溜まりの英雄だ。」

ソイラ?「なっ...!?」

魔獣王「...良いのだな?」

ジーク「はい、間違いありません。」

異時層ソイラ「くっ、魔獣の手にかけられるくらいであれば...!」

 異時層ソイラ、自ら崖に落ちる。

アルド「あっ...!」

魔獣王「...この高さだ。無事ではあるまい。あの者は余が見てこよう。だが、まずはこちらが先だ。」

 魔獣王、ソイラを引き上げる。

魔獣王「助けてもらったのに、余はおぬしを殺すところだった。すまない。改めて礼を言わせてくれ、陽だまりの英雄よ。」

ソイラ「魔獣王...。」

 ジーク、ソイラに抱きつく。

ジーク「ソイラ!よかった!本当に...、よかった!」

ソイラ「ジーク...。よく私が分かりましたね。」

ジーク「君はお日様の匂いがするんだ。君は確かに陽だまりの英雄だよ...。」

ソイラ「ありがとう、ジーク。私に気づいてくれて...。」

 暗転して場面転換。崖下に落ちて気を失っている異時層ソイラと、それを囲む魔獣王と魔獣たち。

異時層ソイラ「う...うぅ...。」

魔獣「まだ息があるな...。なんという執念だ...。」

魔獣「...この者は危険です。王よ、ここで始末しましょう。」

魔獣王「ふむ...。」

 魔獣王、剣を抜き振り下ろそうとする。しかし、やめる。

魔獣王「しかし、今はアルテナの結んだ不戦の契りがある。それを王たる余が破るわけにもいくまい。手足と口を縛り、他の兵ともども送り返そう。これで不当な裁きが下るようであれば、和平は破棄するしかあるまい。」

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