第2幕前半
▼古戦場跡
荒野を歩く三人。近くに池がある。
アルド「今日も大分歩いたなあ。」
ジークの腹が鳴る。
ジーク「はは、は...。ごめん、気にしないで。」
ソイラ「お腹も空きましたし、今日はここで野営しましょうかー。」
アルド「賛成。それにしても、たまには携行食じゃないものも食べたいなよぁ。」
ジーク「そうですね。とはいえ、無いものは出てきませんしね...。」
ソイラ「うーん...。」
ソイラ、池に向かう。
ソイラ「...この池、お魚がいますねえ。」
アルド「お、釣ってみるか?でも、餌や道具がないなぁ。」
ソイラ「適当に近くの虫と道具で釣ってみましょうー。これをこうしてー...、えいっ!」
ジーク「手際がいいね。釣れるのかな...?」
アルド「お、引いてるぞ...!」
ソイラ「とりゃー!」
魚が釣れる。
ソイラ「わー、大物ですー!」
アルド「おおっ、凄いじゃないか!俺たちもやってみよう!」
ジーク「そうですね!」
暗転して時間経過。焚き火を囲んでいる。
アルド「いやー、食べた食べた。」
ソイラ「余った分は保存食にしましょう。作り方をリンデのおばさまに教えて貰ったんですー。」
アルド「おお、それは楽しみだ。」
ソイラ「...あら?ジークは何をしているんです?」
ジーク「これかい?絵本を描いているんだ。」
ソイラ「まあ!素敵ですねえ。」
ジーク「そうかな。子供っぽくて笑っちゃうだろう?」
ソイラ「そんなことないですよー。私、絵本大好きですー。子供の頃に読んでもらったのを思い出しますねえ。」
アルド「はは、確かにソイラは好きそうだ。」
ソイラ「む?それはどういう意味ですかー。」
ジーク「ははは。でも、ソイラにそう言ってもらえると嬉しいな。僕は絵本作家なんだ。こうして時間を見つけては描いていてね。村の子供達に読んであげてたり、売り歩いたりしているんだ。」
アルド「そうだったのか。いいな、そういう生活。」
ソイラ「ふむー。では、是非とも何か読んで下さいー。私を満足させると、保存食の出来が良くなるかもしれませんよー。」
ジーク「ふふ、それは責任重大だ。」
アルド「いいな。俺もちょっと興味あるぞ。」
ジーク「では、魔獣の大人にも人気のある物語をお聞かせしましょう。...こほん。昔々、あるところに...。」
カメラを引いて終了。
▼森
三人が歩いている。日差しの良い綺麗な森。
ジーク「この森を抜ければ、僕の故郷はあと少しです!」
アルド「暗黒大陸にもこんな森があるんだな。」
ソイラ「久しぶりの太陽ですー。少しお昼寝していきましょうー。」
ジーク「でも、今は休んでいる場合じゃ...!ここに来るまで、いくつもの村が滅ぼされているのを見てきた!早く帰らないと...!」
ジーク、先に進もうとして膝をつく。
ジーク「あ、あれ...?」
ソイラ「はやる気持ちは分かりますが、休憩も大事ですよー。」
アルド「そうだな。連日、歩き詰めだ。肝心な時に動けなくなったら話にならない。」
ジーク「...すみません。二人の言う通りです。」
ソイラ「ジークはそこで休んでいて下さい。私は焚き火に使えそうな枝や食べれそうなものを探してきます。」
ジーク「ありがとう、ソイラ...。」
アルド「じゃあ、俺はここで野営の準備をしているよ。」
ソイラ「はいー。宜しくお願いしますー。」
暗転して時間経過。ソイラが枝を拾っている。
ソイラ「...ふう。こんなものですかねー。ついつい集めすぎてしまいました。」
ソイラ、少し歩いて膝をつく。
ソイラ「ととっ...、目眩が...。私も人のことを言えないですねえ。」
背後から音もなく魔物が忍び寄る。
ソイラ「早くみんなのところに戻りませんと...。」
音もなく魔物が飛びかかる。その影に気づいて振り返る。
ソイラ「しまっ...!」
ジーク「ソイラ!!!」
魔獣の姿になったジークが魔物に飛びかかる。
魔物「グアアア!?」
ジーク「ソイラに手を出すな!!!」
揉み合いになる。ジークは何度も投げ飛ばされるが、何度も飛びかかる。しかし、ついに起き上がれなくなる。
ジーク「あ...、ああ...。ソイ...ラ...守...。」
ソイラ「ジーク!?」
ジークに飛びかかる魔物。すんでのところでアルドが打ち払う。
アルド「間一髪だな...!大丈夫か!」
ソイラ「アルドさん!」
アルド「ソイラの帰りが遅いからジークが探しに行ったんだ。だけど、ジークも戻らないから、心配になって見にきたんだよ。」
ソイラ「恩にきます、アルドさん!よくもジークを!」
バトル。勝利後。人間の姿に戻っているジーク。そのそばにいるソイラ。
ソイラ「ジーク...。あなたも魔獣の姿になれたんですね。」
ジーク「弱くて驚いただろう...?本気で戦ったのは...生まれて初めてだよ。」
ソイラ「弱いだなんて、そんな...。勇敢でしたー...。」
アルド「待ってろ!何か薬草を探してくる!」
ジーク「そうだ...、アルドさん。あの木が見えますか?」
アルド「木...?あれか?」
ジーク「あれはこの森の神木、精霊樹...。100年に一度、光る葉をつけます。数枚だけ採って...、一枚を僕の傷に...。」
アルド「よし、待ってろ!」
暗転して時間経過。倒れたジークの隣にかがみ込んでいるアルド。ジークは光に包まれている。
アルド「凄い...。傷がみるみる塞がっていく...!」
ジーク「...。」
ソイラ「目を覚まして下さい、ジーク...。」
光が消える。
アルド「葉っぱが枯れて、光が...。」
ジーク「...葉が生命力を使い切ったんです。使えるのは一度だけ...。」
アルド「お、気付いたか!」
ジーク「一度に多くの葉を採ると精霊樹が命を失います。余った葉は二人が持っていて下さい。きっと役に...。」
ソイラ「ジーク...!」
ソイラ、抱きつく。
ソイラ「あと少しで死ぬところだったんですよ...!故郷まであと少しじゃないですか。私なんかのために無茶したらだめですよ...。」
ジーク「...それでも、君が無事で良かった。人のために頑張れる君の方こそ、こんなところで死んじゃいけない。」
暗転して時間経過。アルドが火の番をしている。陽だまりの中でソイラとジークが添い寝をしている。
ソイラ「すぅ...すぅ...。」
ジーク「すぅ...すぅ...。」
アルド「...出発したら、当分日向ぼっこはお預けだろうな。ゆっくり休んでくれ。」
アルド、大きく伸びをして気合を入れる。
アルド「さて。ソイラと交代する時間まで、見張りを頑張るかな。」
▼古戦場跡
崖の上に三人がいる。
ジーク「あれです!あれが僕の育った村です!」
アルド「ついに、ここまで来たんだな...!」
ソイラ「みなさん無事だといいのですがー...。」
▼古戦場跡
テントなどが張られており、村のようになっている。おびただしい死体の山ができている。
ジーク「あ...、ああ...!どうして、そんな...。」
ソイラ「ジーク...。」
ジーク「どうしてなんだ...!どうして人間はこうも残酷になれるんだ...ッ!」
ソイラ「落ち着いて、ジーク...。」
ジーク「落ち着けだって!?君はこの惨状を見ても何とも思わないのか...!?それは...、君が人間で...、僕たちが魔獣だからか...?」
ソイラ「ジーク...。」
アルド「なんとも思わないわけ無いだろ...?ショックなのは分かるよ...。だけど、まずは落ち着くんだ...。」
ジーク「ああああ...ッ!くそぉ...!なんで...。」
間を置いて。
ジーク「...ごめん。少し、一人にさせてほしいんだ...。」
アルド「ああ...。」
ジーク去る。暗転して時間経過。ジークが一人で広場にいる。子供の死体の山がある。
ジーク「ミーシャ...、アーノルド...、ウェンディ...。みんな、一緒によく絵本を読んだね...。みんな、もうこの世にはいないのかい...?」
ジーク、膝をつく。子供の死体の山に絵本を見つける。
ジーク「これは...絵本...?この本は、つい最近も読んだな...。」
カットバック。ソイラ達に絵本を読んだシーン。
ジーク「では、魔獣の大人にも人気のある物語をお聞かせしましょう。...こほん。昔々、あるところに...。」
カットバック戻る。
ジーク「そうか、これはあの時の...。」
カットバック。
ソイラ「ふむー。では、是非とも何か読んで下さいー。私を満足させると、保存食の出来が良くなるかもしれませんよー。」
カットバック。
ソイラ「私、絵本大好きですー。」
カットバック。
ソイラ「さあ、ジーク。色々食べ物を持ってきましたよー。いっぱい食べて元気になりましょうー。」
このようにソイラがジークを思いやるシーンを畳みかけるように連続してカットバック。
ジーク「あぁ...そうだ...。ずっと彼女は...彼女たちは僕のために...。人間と魔獣の違いなんてあるわけないじゃないか...。」
ソイラ来る。
ソイラ「...。」
ジーク「ソイラ...。ごめん...、僕は君に酷いことを言って...。」
ジーク近づく。その次の瞬間、槍を突き出したソイラが肉薄している。
ジーク「え...?」
更にその次の瞬間、もう一人のソイラがジークの前に立って攻撃を受け止めている。
異時層ソイラ「まあー。今日は変なのによく会いますねえ。」
ソイラ「くっ...!」
ジーク「ソイラ...!?ソイラが...二人...?」
鍔迫り合いから打ち払い。二人は間合いを取る。
異時層ソイラ「せっかく人がいい気分でお昼寝しているのに、うるさい魔獣のせいで台無しですう。」
ソイラ「これが、こっちの世界の私ですかー。随分と歪んでますねえ。」
異時層ソイラ「あなたも、どこのどなたなんでしょうー?魔獣が化けてるのでしょうかあ?」
アルド来る。
アルド「武器がぶつかる音がしたぞ!...って、ソイラが二人!?てことは、まさか...!」
ソイラ「はいー。そのまさかみたいですー。」
異時層ソイラ「あらー。次から次へと。」
アルド「...お前がこっちの世界のソイラだな!戦争はもう終わったんだ!魔獣を殺して回るのはもうやめろ!」
異時層ソイラ「はて?戦争が終わった?」
ジーク「そうだ!君が暗黒大陸で戦っている間に、不戦の契りが結ばれたんだ!戦争はもう終わったんだよ!」
異時層ソイラ、笑う。
異時層ソイラ「戦争が終わるわけないじゃないですかー?戦争は心の問題ですよう。私たちが戦争だと思う限り、戦争は続いているんですー。」
ジーク「なっ...!?」
異時層ソイラ「不戦の契り?それがなんだと言うのですー。私たちも聞き及んでいますよ。腰抜けの王が勝手に結んだのでしょう?アナベル様が実権を握っているのが気に食わなくて、レジスタンスと結託したとか。」
アルド「ミグランス王はそんな理由で停戦を申し入れたわけじゃない!」
異時層ソイラ「そう思うかどうかも、また人それぞれですねえ。」
アルド「くっ...、まるで聞き耳を持たないな。」
異時層ソイラ「...魔獣城でアナベル様は死に、ラキシス様も死体で見つかったとか。なのに、魔獣王はおめおめと生き延びているという。それで停戦?...受け入れられるわけないじゃあないですか。」
ソイラ「憎悪がひしひしと伝わってきますねえ...。」
異時層ソイラ「...魔獣王の首を取り、アナベル様とラキシス様の無念を晴らすのですー。それが終わったら腰抜けの王も裏切り者のラディアス達も、みーんな死をもって罪を償わせるのですよー。」
アルド「ミグランス王たちも殺す気なのか!?」
異時層ソイラ「長話が過ぎましたねえ。...さあ、そろそろお昼寝の時間じゃないですかあ?血の揺り籠で静かに眠りましょうー。」
バトル。勝利後。
異時層ソイラ「あらー。思ったよりも腕が立つんですねえ。これは多勢に無勢でしょうか?」
異時層ソイラ、踵を返して去っていく。
アルド「あっ、待て!ここで逃がすわけには...!」
アルド、追おうとする。
ソイラ「ダメです、アルドさん!」
アルド「ソイラ、なんでだ!ここで逃したら魔獣王やミグランス王達が!」
ソイラ「これは罠ですー。彼女には一個師団が与えられているのをお忘れですか?ここにその軍隊がいないということは、合流しようとしているんです。」
アルド「ついていけば、やられるのはこっちということか...。」
異時層ソイラ「あらー?来ないんですかあ?私、行っちゃいますよー?」
アルド「くそ...!どこまで人をおちょくれば気が済むんだ...!」
ジーク「挑発に乗ってはダメです、アルドさん...!」
ソイラ「もう一人の私...。我ながら厄介な相手ですねぇ...。」
暗転して時間経過。広場に佇む三人。
アルド「向こうのソイラは戻ってこなそうだな...。」
ソイラ「私たちが追って来ないなら、予定通り魔獣王の討伐に向かえばいいだけですからねえ。」
アルド「それでどうする、これから?」
ソイラ「追いましょうー。気付かれないように、こっそりと。」
ジーク「僕は...、ここに残ってみんなを弔うよ。」
アルド「...そうだな。野ざらしじゃ可哀想だ。」
ソイラ「はいー。相手の警戒が解けるまで、私たちも手伝いますー。」
ジーク「ありがとう、二人とも...。」
暗転して時間経過。死体の山が無くなり、お墓がたくさんできている。
アルド「これで少しは安らかに眠ってもらえるかな...。」
ソイラ「はいー、きっと。」
ジーク「二人とも本当にありがとう。...それで聞いて欲しいことがあるんだ。」
アルド「どうかしたか?」
ジーク「この死体の中に、僕の両親はいなかった。他にも何人かがいなかった。」
ソイラ「それって...?」
ジーク「多分、まだ生きている。おそらく、魔獣王様と一緒に。」
アルド「少しは希望が出てきたな...!」
ジーク「あぁ。...それで、やっぱり僕も君たちについていこうと思うんだ。僕に何かできるわけではないけど...、家族が無事か見届けさせて欲しい。」
アルド「ああ、行こう。きっと無事さ。」
ソイラ「はいー。そのつもりでここまで来ましたー。」
一拍置いて。
アルド「よし、この世界のソイラを追いかけるぞ。手遅れになる前に。」
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