陽だまりの英雄と血溜まりの英雄
@tetsuya00
第1幕
▼ユニガン
ソイラが森のある門へ向かって歩いている。色々な人に声をかけられる。
おばさん「あ、ソイラ様!申し訳ないんだけど、また畑の水やりをお願いできないかしら?腰を痛めてしまって...。」
ソイラ「はいー。少し用がありますので、部下を向かわせますー。」
狩人「お、嬢ちゃん。二つ名を俊足のソイラに戻すこと考えてくれたかい?」
ソイラ「ごめんなさいー。私は陽だまりの英雄の方が気に入っちゃいましてー。」
門の近くでアルドと会う。
アルド「お、ソイラじゃないか。どこへ行くんだ?」
ソイラ「あら、アルドさん。これは丁度良いところにー。私は幸運ですねえ。」
アルド「ん、どうしたんだ?」
ソイラ「アルドさんは魔獣の方とも交流がありましたよね?折り入って相談があるのですがー...。」
アルド「ああ、俺でよければ相談に乗るぞ。」
ソイラ「では、少しついてきてもらえないでしょうか。ここでは少し話にくいのでー。」
アルド「...?分かったよ。」
ソイラ「...と、その前に。」
ソイラ、門番と話している兵士に声をかける。
ソイラ「丁度良いところでお会いしましたー。申し訳ないのですが、いつものおばさまの畑に水やりをお願いできないでしょうか?私は少し用がありましてー。」
兵士「えぇっ、またですかソイラ様ー!」
ソイラ「代わりに、先日狩人さんから頂いたお肉をお裾分けしますのでー。では、アルドさん行きましょう。」
アルド「あ、ああ...。」
▼潮騒の森(異時層でない)
アルド、ソイラに連れられて木陰で寝込んでいる魔獣の青年と会う。
ソイラ「こちらです、アルドさん。」
アルド「その姿...、魔獣か!?大分衰弱しているように見えるけど...。」
ソイラ「先日、日向ぼっこに来たところ倒れているところを見つけましてー。話を聞いてみたところ、悪い魔獣ではないみたいなんですよねえ。それで、ひとまずここで手当てしていたんです。街に連れて行くと混乱が起きますのでー。」
アルド「そうだったのか...。」
青年「彼女のおかげで助かりました...。ところであなたは?」
アルド「俺はアルド。よろしくな。」
青年「僕はジーク...、よろしく...。」
ソイラ「さあ、ジーク。色々食べ物を持ってきましたよー。いっぱい食べて元気になりましょうー。」
ジーク「ありがとう、ソイラ...。」
暗転して時間経過。
ソイラ「...それで、アルドさん。私はジークを故郷に帰してあげようと思うんです。今はまだ、人間と魔獣が手を取り合える時代ではないのでー。」
アルド「そうだな、それがいいんじゃないか。アルテナに頼んでみようか。」
ソイラ「...ただ、どうも話が噛み合わないんですよねえ。彼は暗黒大陸の出身だそうでして。その故郷から、姉夫婦を訪ねてこの森に来たそうなんです。そこでアナベル様の魔獣狩りに遭い、姉夫婦に助けられてどうにか逃げ延びたそうです。」
アルド「アナベルが!?」
ソイラ「はいー。そんなお方ではないのですが...。その後、ジークは戦争が終わったことを知り故郷に戻ろうとしたそうです。けれど、気付いたらこの森で倒れていたそうなんですー。」
アルド「...なるほど、なんとなく分かったぞ。」
ソイラ「まあ、本当ですか!やっぱり、アルドさんに相談できたのは幸運でしたねえ。」
アルド「いくつか確認したいから、少しジークと話してみるよ...。」
暗転して時間経過。
ソイラ「異時層...。そんな場所があるんですねえ。」
ジーク「僕は帰れるんでしょうか...。」
アルド「時層の穴は安定しているからな。きっと大丈夫さ。穴の場所には俺が連れくよ。」
ジーク「ありがとうございます、アルドさん...。」
ソイラ「私もついていきますー。ジークはひょろひょろなので、ちゃんと帰れるか不安ですからねえ。」
ジーク「うーん、ひょろひょろ、か...。」
ソイラ「(笑って)だから、たくさん食べて体力をつけて下さいね。」
▼セレナ海岸
三人が時層の穴の前にいる。穴はバチバチいっており機嫌が悪い。
ソイラ「これが時層の穴ですかー。」
ジーク「なんだかバチバチしているね。本当に大丈夫なんですか...?」
アルド「うーん、普段はもっと安定しているんだけどな...?」
穴のバチバチがおさまる。
アルド「お、静かになったぞ。これなら大丈夫じゃないか?」
ソイラ「だといいのですがー。」
アルド「考えても始まらない。俺についてきてくれ。」
アルド、穴の中へ消える。それを見て、ソイラ達も頷き穴に入る。
▼潮騒の森
穴から出てきたジーク。ソイラとアルドはいない。
ジーク「ここは...、戻ってきたのか...?ソイラ...?アルドさん...?」
兵士と錬仗兵器が来る。
兵士「おおっと、まだ残党がいたか...。錬仗兵器を持ち出した甲斐があったぜ。」
ジーク「ひええっ...!」
兵士「停戦なんて認められるか...。俺はお前らが視界に入るのは許せねぇんだよ!いけ、錬仗兵器!」
錬仗兵器が飛びかかる。
ジーク「うわあああ...!」
ソイラ「はあぁー、よいしょーっ!」
ソイラ、すんでのところで錬仗兵器を打ち払う。
ソイラ「大丈夫ですか、ジーク?」
ジーク「ソイラ...!?助かったよ...。」
ソイラ「この兵器はいったい...。(兵士に)あなた、非戦闘員への攻撃は騎士道に反しますよ?」
兵士「うるせえ!魔獣の肩なんぞ持ちやがって!...いや、あの顔どこかでみたような。...まあいい。錬仗兵器、全員集合!」
錬仗兵器が3体ほどやってくる。
兵士「いけ、奴らをやっつけろ!」
錬仗兵器が飛びかかる。ソイラ、なんとか食い止めるが、1匹がジークに襲いかかる。それをアルドが打ち払う。
アルド「すまない!変な場所に出て遅くなった!やっぱり穴の調子は悪かったみたいだ!」
ソイラ「いえ、いいタイミングですー。一緒にこの兵器をやっつけましょう!」
バトル。勝利後。
兵士「バカな...、こんなことが...。」
ソイラ「勝負はつきました。ここは矛を収めて帰っていただけませんかー?」
兵士「思い出した...。なぜ魔獣と一緒に...。その顔...、その間延びした声...!あなたは、血溜まりの英雄のソイラ様!」
ソイラ「陽だまりですー!!そんな物騒な英雄にしないで下さいー!」
兵士「ひぃっ、何かお気に障るようなことを!?命だけはお助けをーー!」
兵士、逃げ出す。
ジーク「君は随分恐れられているんだね...。」
ソイラ「違いますよう。誤解ですー!」
アルド「なんだったんだ...。まあいいや。とりあえず、ラディアスに相談してみよう。きっと力になってくれる筈だ。」
ソイラ「ラキシス様のお嬢様がですか?」
アルド「ああ、そうか。こっちのラディアスは騎士団長代理なんだよ。詳しくは歩きながら話そう。」
ソイラ「分かりましたー。こっち世界は色々変わってるんですねえ。」
▼ミグランス城詰所
ラディアスがいる。そこにアルドとフードをかぶったジークか来る。
ラディアス「おや、アルドじゃないか。詰所に訪ねてくるなんて珍しいな。」
アルド「ラディアス、実は相談したいことがあってさ。」
ソイラ来る。
ソイラ「アルドさんー。なんだか皆さんの私を見る目がおかしくないですかあー...。」
ラディアス、後ずさる。
ラディアス「ひぃっ、ソイラ様!?」
ソイラ「うわーん、傷つきますー...。」
暗転して時間経過。
ラディアス「...なるほど。姉さんの被害者か。」
アルド「ああ...。暗黒大陸に故郷があるらしいんだけど、帰してあげられないかな?」
ラディアス「...それなんだが、今はやめておいた方がいい。」
ジーク「何故です?」
ラディアス「理由は二つ。一つはリンデと暗黒大陸を結ぶ航路に厄介な魔物が出るようになったからだ。普段はカレク湿原で見られる鳥のような臆病な魔物なのだがな。凶暴化して船を襲っており、既に数隻沈められている。錬仗兵器で応戦しているが、非常に素早くて全く当たらないそうだ。」
ソイラ「はて、なんだか心当たりが...?」
ジーク「それで、もう一つの理由は?」
ラディアス「暗黒大陸で魔獣の大規模な殺戮が行われているらしい。」
アルド「なんだって!?」
ラディアス「何が起きているのかは不明だ。我々としても調査したいのだが、先程の魔物のせいで上陸できずにいる。ただ、一つ言えるのは、いまの暗黒大陸はかなり危険ということだ。できれば、事態が落ち着いてから行った方がいい。」
ジーク「でも、そんなことを言っていたら僕の故郷は...。」
ソイラ「ジーク...。わかりました。このソイラが、ジークを故郷に帰し、ついでに暗黒大陸で何が起きているかを調べてきましょうー。」
アルド「ソイラ!?」
ジーク「気持ちは嬉しいけど、君の手に負える問題じゃ...。」
ソイラ「あら。こうみえても私の事件の解決率はすごいんですよー。」
アルド「それは迷子の猫探しとかじゃないのか...?」
ラディアス「...いや、こちらのソイラ様と同じなら、あるいは。」
アルド「ラディアス?」
ラディアス「いやな、父上も姉さんもソイラ様のことは一目置いていたのだ。観察眼が優れる、常に期待以上の成果を上げる、と。聞いた話では、本当に解決しなかった事件はないらしい。」
アルド「ソイラが?...いや、言われてみれば俺の知るソイラもそうかもしれない。」
ラディアス「君たちが暗黒大陸に向かってくれるというのなら、船は私が手配しよう。」
ソイラ「ありがとうございますー。必ずや期待に応えてみせましょうー。」
ジーク「だ、大丈夫なのかな...。」
アルド「大丈夫さ...、多分。」
ソイラ「さあ、そうと決まったらトウガラシの粉をたくさん持っていきますよー。」
ラディアス「トウガラシの...粉?」
▼船上(リンデで受注)
船の上にアルド達三人がいる。
ジーク「海の上は寒いかと思っていたけど、思ったより暖かいんだね。」
ソイラ「暖流の上を通ってもらってますからねー。それに天気の良い日に来れて良かったですー。」
アルド「こんなにぽかぽか陽気だと、なんだか眠くなるな。」
ソイラ「はいー。あとは魔物さんが出てくるまでお昼寝をして待ちましょうー。」
アルド「えぇ...?」
ソイラ「すぅ...すぅ...。」
ジーク「寝てる...。はは、これは確かに陽だまりの英雄だね。」
アルド「そうだな。やれやれ、呑気なのか、肝が座っているのか...。」
暗転して時間経過。ソイラ起きてる。
海兵「でたぞ!あの魔物の群れだ!」
ソイラ「来ましたか。では、皆さん手筈通りに!」
海兵「本当にこんなので大丈夫なんだろうな...。」
海兵「ラディアス様の命令だ。俺たちの命、あんたに預けるぞ!」
海兵「トウガラシ煙幕、てぇーー!」
魔物の群れに向かってトウガラシの粉が撒かれる。
魔物「グギャアアアア!?」
海兵「おお、本当に動きが悪くなったぞ!」
海兵「錬仗兵器、撃て撃てー!」
錬仗兵器が次々魔物を撃ち落として行く。
アルド「やった、大成功じゃないか!それにしても、どうしてあんなに上空の魔物にもトウガラシの粉が当たっているんだ?俺たちにはほとんど粉が来ないし...。」
ジーク「風だ...。」
アルド「また運良く風が吹いているのかな?」
ジーク「違う、上昇気流だよ...!暖流の温かい空気は、冷えた上空へと向かって行くんだ...!」
ソイラ「ふふ。始めから幸運をアテにしてはいけませんよ、アルドさん。」
アルド「...よくわからないけど、ソイラが実は凄いんじゃないかということは分かった!」
海兵「何匹か魔物が甲板に降ってくるぞ!」
アルド「よし、そいつらは俺たちに任せろ!」
バトル。勝利後。暗黒大陸に上陸した三人。
アルド「...着いたな。暗黒大陸。」
ジーク「ああ、村のみんな...。無事でいてくれ。」
ソイラ「ジーク...。」
アルド「よし行こう!ジークの故郷へ!」
▼ミグランス城詰所・回想
語られていなかった部分のラディアスとの会話。
アルド「...ところで、なんでみんなソイラに怯えているんだ?」
ソイラ「それ!それですぅ!」
ラディアス「...覚えているか、アルド。姉さんは魔獣への復讐心を煽るのが上手かった。」
アルド「ああ。そういえばラキシスが言っていたな。」
ラディアス「その影響を一番受けていたのがソイラ様だ。特に御両親を魔獣に殺されてからは、何かが壊れたかのように魔獣を殺して回っていた。」
ジーク「そんな...。」
ラディアス「ソイラ様は騎士団に所属しているが、組織に縛られず自由気ままに行動しているお方だった。普段はのんびりしており、誰も彼女が戦っているところを見たことがない。しかし、気付けば至る所に彼女の築いた死体の山と血溜まりができていた。自ずと誰もが彼女を畏怖するようになった。そしてついた二つ名が、血溜まりの英雄というわけだ。」
ソイラ「こっちの私は怖いですねえ...。」
ジーク「き、君はそんなことしないよね...?」
ソイラ「しませんよう!」
ラディアス「その武功に姉さんも大いに喜び、一個師団と独自特権を与えたくらいだ。...あとで分かったことだが、魔獣城への討ち入りにもソイラ様は参加していなかった。常に気ままに行動しており、その所在は掴めない。停戦後もソイラ様はお戻りになっていないようだ。...例の暗黒大陸での魔獣の殺戮だが、ソイラ様が行っているのではないかという噂もある。」
アルド「それは...、怖いな。」
ラディアス「ああ...。くれぐれも気をつけてくれ。」
▼古戦場跡
魔獣の死体の山と血溜まり。そこに佇む異時層ソイラ。
異時層ソイラ「ふんふんふーん♪また世界が綺麗になりましたねえ。」
兵士来る。
兵士「ソイラ様。尋問した魔獣が吐きました。やはり、魔獣王は向こうに落ち延びたようです。」
異時層ソイラ「良くやりましたー。では、掃除をしながら追いかけましょうか。」
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