たずねる
カフェ・ファラーシャの朝は早い。
砂漠のど真ん中のこのカフェにやってくるのは観光客しかいない。北に100km離れた町からやってきて、南に100km離れた観光地まで向かう。そんな連中が観光バスに揺られながらふらりふらりとやってくる。
カフェの責任者であるスフヤーンは、毎朝この観光客を迎え入れるためだけに車でやってきて、飲料や土産物を揃え、トイレを掃除し、そして昼ごろやってくる観光客を送り出すことだけをその仕事のすべてとしていた。
その日もスフヤーンは無事に観光客を送り出したことに安堵していた。あとは適当な時間に切り上げ、また次の日適当な時間にやってくればいい。
ふと、店の外に見慣れぬものが目に入った。
歩行者だ。
そんなはずはなかった。一番熱い時間帯だ。一番近い街からでも一日はかかるその道程を歩いてきたとでも言うのか?
スフヤーンは慌ててその人物を呼び止めた。
「おいアンタ! そんなところで何してるんだ」
反応はなかった。スフヤーンは心配半分、商売心半分でその人物に近づいていった。蓄えた髭の量で男であることはわかった。
「冗談はよしてくれ。ここから南まで歩こうってのか? 無理言うな。進めも戻れもせずに行き倒れてハゲワシの餌になるのがオチだ」
男はスフヤーンを見返してきた。スフヤーンはその瞳に見覚えがあったが、しかしどこで見たのかを思い出すことはできなかった。
「水でも飲んでけ。冷たいのがあるぞ。アイスティーもある」
男はやはり何も語らなかった。
「なあアンタ。この店の近くで野垂れ死なれるとこっちも困るんだよ。頼むから寄っていってくれよ」
しかし反応はない。そこでスフヤーンはあることに気づいて、たずねてみた。
「アンタ、どこまで行こうってんだ。終わる見込みはあるんだろうな」
男は答えた。
「終わりなどはないさ。終わらせることはできるけど」
スフヤーンは、すべてを悟って、言った。それは普段のスフヤーンの口調とはまったく異なっていた。
「そう、じゃあ、お気をつけて」
<了>
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