プルタブ

 あるべきものがそこにない。穴が空いてない五円玉とか。

 あるべきでないものがそこにある。トマソンとかね。

 真逆なのに、どちらも同じ情緒を漂わせている。

 私はこれらがどちらも好きだ。だから収集している。私の部屋は、印刷のずれた切手や、出口の足場がなく、宙に浮かんだように見えるドアの写真なんかで溢れている。

 これらが本来の機能を失っていないと、より美しい。

 印刷のズレた切手はそのまま使えることもあるらしいし、宙に浮いたドアは荷物の搬入などに使われることがあるらしい。本来の機能を失っていては駄目なのだ。

 そんなものを集めていたら、いつしか私の部屋のものたちに「あるべき場所にあるべきものがなくなる」「あるべきでない場所にあるべきでないものが発生する」などの現象が起きるようになった。

 つまり、ティッシュの箱から穴が消えた。缶ビールからプルタブが消えたりもした。私の部屋にある変わったものたちと同調し始めたのだろう。私も日本人だから気持ちはよく分かる。

 さて困ったぞ、と思って部屋中を探していたら壁からプルタブが生えていた。

 引っ張って開けると壁からビールが溢れ出してきた。

 ああ、なんて美しい。やはり本来の機能は失われるべきではない。

 私は壁から生えたティッシュを一枚取って、それを拭いた。

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