イチョウ
この季節、いつも通る並木道は落葉で埋め尽くされている。
落ちて濡れている葉とは対照的に、樹の上の方につく葉はまだ青々としている。
長年に渡る現役人生が今日で終わるのだ。清々しい気持ちなどあるわけがない。残ったのは悔いばかりだ。
プロとアマチュア。
パブリックとプライベート。
現役と、引退。
一般的に言って、それら二つの境界はそこまで明確ではないことが多い。辞表を出した瞬間か。退勤の時刻を迎えたときなのか。
だが豊川の場合は違った。そこには明確な境目がある。
悔やんでも悔やみきれぬ。まだ戦いたかった。戦えなくなった。
「膝が逆に曲がる」ような怪我をするとそういう仰々しい診断名がつく。はたして豊川の膝は実際に逆向きの力を加えられ、しばらくは立つことすらできなくなっていた。
怪我による引退──。
相手を恨んでもしょうがない。終わったことだ。自分のためにこれほど大きな引退セレモニーが開かれる、ということ自体を喜ばなければやりきれない。
豊川はカエデの落葉で真っ赤に染まった道を歩き出した。
◆
会場は一万人のファンとマスコミで埋め尽くされていた。
元大関、
豊川の
明確な境目。この髷の最後の一本が頭から離れた瞬間から、豊川は関取ではなくなる。
出来ることなら、力を入れて持ちこたえたかった。髪の毛でそんなことができるわけがないことはわかっている。土俵際とは違うのだ。
サクッ。
切り取られた
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