通知表
くだらねえ。
男は「1」の並んだ通知表を手に、そう吐き捨てた。
そりゃあそうだ。関心? 意欲? 態度? 馬鹿馬鹿しい。そんなものがこの身に存在したことなど人生で一度もない。
何に対する関心だって言うんだ? 盗みか? 殺しか?
それにしたって関心やら意欲やらがあってやったわけじゃない。ただ行き当たりばったりにそうして生きていただけだ。
男が受け取ったのは「人生の通知表」であった。
ひとたびの生の終わりに、その人物の一生がどのようなものであったのか。この薄い紙にはその総ざらいが書かれているのだった。
人を殺したり家に火をつけたり、いろいろ悪事を働いた大泥棒であった男は、それを地獄で受け取った。
技能。思考。判断。表現。どれをとっても1、1、1。すなわち、男の人生とはそういうものであった。
馬鹿にしやがって。
破り捨ててやろうか。男が通知表を紙くずにしようと手をかけたとき、見慣れぬ文字が目に止まった。
「5」だった。つまり、一つだけ最良評価の項目があるのに気がついたのだ。
曰く、「自然を愛し、生物を守ろうと慈しむ心」。
男は考えた。何のことだ?
そして一つの経験に思い当たった。
男は、一度蜘蛛の命を救ったことがある。
道端を歩く蜘蛛を踏み潰しそうになったとき、思い直して足をどけてやったことがあった。
他に思い当たる節はない。この経験が「5」の理由であることは明らかだった。
ますます馬鹿にしやがって。
男はいよいよ激昂した。激昂して、ついにこの通知表を粉々に破り捨ててしまった。
そのとき、地獄の中空にはそれはそれは美しい銀色の糸が垂れていたが、それに気づいた者は一人としていなかった。
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