探索

 鍵山かぎやま晃博あきひろはロールプレイングゲームが好きだったが、そのプレイは時間がかかって仕方がなかった。

 すべての部屋に入らないと気が済まないのだ。

 強力な武器や防具が眠っているかもしれないし、心躍るサブクエストが待ち構えているかもしれない。

 全てを無視してボスまで一目散に向かおうとするプレイなど見ていると、虫酸が走る。

 そんなわけで、鍵山がゲームをクリアするまでには、年単位の時間がかかることすらあった。

 ある日鍵山は気がついた。どうやら、自分は現実世界に於いてすら、すべての部屋に入りたがっているようなのだ。

 ビルとビルの隙間の細い道。商店街の店の二階の窓。非常時にしか通れない避難路。公共施設の関係者以外立ち入り禁止のドア。

 どうあがいても入れない場所を発見してしまうと、いても立ってもいられなくなる。

 あの場所は、例えば作業員や関係者など、そこに入ることができる人間がこの世に一人はいるはずの場所なのだ。

 それなのに、自分はそこに入ることができない。この事実が、鍵山を苦しめるのであった。

 ばれない範囲で、他人に迷惑をかけない範囲で。

 だから鍵山は不法侵入を繰り返したが、その日は運が悪かった。

 ロープをまたいで踏み入れた場所が政府高官の私有地だったのだ。

 監視カメラにばっちり映った鍵山はついに逮捕され、普通に暮らしていたら絶対に入ることができない拘置所に入れることを想像すると、たまらなく幸せな気分になるのであった。

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