ピアニスト

 ピアニストには変態が多い、という話はよく聞く。

 一般に通じる「あるある」なのかはわからないが、少なくともここ御手洗音楽大学ではよく耳にする噂話の一つだ。

 我が身を振り返っても、今まで体を重ねたことのあるピアニストの男は確かに変態が多かった。

 屋外、それも痴漢の真似事のようなことををしないと満足できない男。

 ラバースーツを着込んで自らを後ろ手に縛ってくれと懇願してきた男。

 道具を使った行為しかしない男は、しかも服の上から責めるのでないと興奮しないようだった。

「美味しかったね、また来ようね」

 雪成ゆきなりくんは、はじめて付き合った御手洗音大以外の人だった。

 うん、と満面の笑みで答えてあげて、隣を見やる。

 薄い顔、薄い唇、薄い肌色。人畜無害そうな佇まいだが、意外にもロックバンドでギターをやっているとのことだった。

「……ねえ今日さ、うち来る?」

 すでに5回のデートを重ねていた。もちろんそのつもりだ。初めてのデートの時点で何が起きても大丈夫なを身に着けていた。

 ……うん、と今度は少しうつむき加減に答えてあげる。

 ギタリストにしては奥手なんだな、と私は偏見を少し修正する。


 彼の家に上がったことを後悔していた。

 痛い。痛すぎる。いいか。そこは内臓なんだ。もっと大事に扱ってほしい。

 激しく求められていると言えばまだ聞こえはいいかもしれないが、これは単なる独りよがりな行為に過ぎない。

 そもそもいきなり直接触ってくるピアニストは一人もいなかった。そういえばみんな服の上からのほうが好きだった。

 ちょっと、ごめん、痛い。そう言って行為を中断してから、私はピアニストとギタリストとの大きな違いに思い当たっていた。

 ギタリストと付き合うのはもういいかな。弦に直接触る人より、鍵盤を介して弦に触る人のほうが、どうやら性に合っているみたいだ。

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