帰宅 ~親友の百合子は家事をしてくれます~
「ただいま~」
「おかおかー」
仕事が終わり自宅に帰宅した私を同居人が間の抜けた声で出迎えた。
「ごはんできてるから、いつものように勝手にどうぞー」
「んー、いつもありがとう百合子」
「まあ、こっちは家賃奢ってもらってる身分ですから。家事位ならいくらでもしますよ」
「……いや、奢るつもりないし。ちゃんと先月の分も払ってよね」
「甲斐甲斐しく家事をこなす親友に対する態度がそれですか? これは明日のメニューは三食納豆ご飯だね」
「嘘でしょ、お弁当も納豆にされるの? 私」
「会社で孤立しちゃうねー、可哀想にねー。そうなる前に辞めちゃえば?」
「私が会社辞めたらルームシェアも解散だけどね。家賃も生活費も私の方が多く払ってるし」
「明日からも頑張って社畜してきてくれたまえ、私のために」
「調子のいいフリーター様だこと」
百合子は私とルームシェアをしているフリーターだ。
週5勤務の私と比べて収入が少ないため、私が金銭面を多く払う代わりに家事の全てをこなしてくれている。
今のところは互いに不満もなく、気楽に同居生活を送れている。
「今日の晩御飯はなに?」
「シチューとハンバーグ。我ながらホワイトソースが絶品にできた」
「また凝った物作ったねー」
「こちとら社会人様と比べて暇人ですから。この前ソシャゲも辞めちったし」
「あれ、辞めちゃったの? けっこう課金してなかった?」
「ソシャゲの寿命なんて運営のアプデ1つで簡単に伸び縮みするんだよ。そしてアプデ次第でまた復帰するかもねー」
「そういうものか。でもソシャゲ辞めたからってそんな暇なの? 掃除とか洗濯は?」
「掃除なんて毎日はしないし。洗濯もドラム式君に放り込んでおけばお終いだし。カコとの間に子供でもいたら話は別だけどねー。あ、その代わり明日は掃除するからそんな凝った物作らないよ」
「いいんじゃない? 私も百合子にそこまで求めてないし。生活に不便がない程度にやってくれてればいいよ」
「……なんか、それはそれでムカつく」
「え? どうして?」
一人暮らしだった時は掃除なんて一か月に一回すればいい方で、食事も総菜か外食が基本だった。
それに比べれば百合子のおかげで私の生活水準は大きく上昇している。
自炊してくれているので食費が節約できて、ゴミ捨て洗濯洗い物などの雑事を無視できるのも大きい。
ハウスキーパーを雇っているようなものだ。
しかも相手が見知った知人で信用が最初から築けていて、その値段もそう高い物ではない。
その上気楽に話し相手にまでなってくれる。
ただ家事をしてくれているだけで有難いし、それ以上の負担を強いるつもりもないのだが。
百合子は何が不満なのだろうか。
「別に苦労を背負ってでもしたいわけじゃないけど、今日みたいに頑張って料理したら褒めてほしいし……。そしたら、忙しくてもまた美味しい物作ろうって思うじゃん」
百合子は少しだけ頬を赤らめて、無造作に伸ばしているロングヘアーをなびかせた。
顔を逸らしながらも、その視線はちらちらと私の様子を窺っている。
「……っぷふ。なにそれ。百合子ってそんな可愛い性格してたっけ?」
「こちとらカコのヒモみたいなものですから。媚び売りはちゃんと意識しないとね」
「はいはい。それじゃあ、自慢のハンバーグとシチューを準備しといてもらえる? その間にスーツを干してくるから」
「パン? ごはん?」
「おすすめは?」
「マカロニなんて選択もあるよ。昨日の夕飯の余り物だから量は少ないけど、消費してくれると助かるし、ダイエットにはちょうどいいんじゃない?」
「……別に太ってないですけど、せっかくだからそれにするわ」
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