第10話 やらねばならぬ事
アウロアは応接室に通され、イリーシアの話を聞いた。
テッドが彼女の姉の子だと聞いた時は、安堵の余り、深いため息を吐いてしまった。
疑っていた訳では無い。
けれど、彼女と同じ髪を持ち、母と呼ぶ子どもがいれば、ついそう考えてしまったのだ。
アウロアは、後ろ向きな考え方は好かない。
それでもあの時は、とてもその現実を受け入れる事は出来ず、背を向けてしまった。
それもこれもイリーシアのせいだ。
彼女の事が好きだから……
「その腕輪は……」
思わず口にしてしまう。
今までの話を聞けば彼女が自分で用意した物なのだろう。
色はテッドに合わせたのだろうか。
その言葉にイリーシアは困ったように、はにかみ、口を開いた。
「私が自分で用意したの。……あなたと私の瞳が合わさったもの」
アウロアは息を飲んだ。
イリーシアは、珍しい金色の瞳をした女性だったから。
それは黄にも見えるものであり、アウロアの青と、イリーシアの黄が合わさった、緑……
「……っ」
思わず赤くなる顔を、口元に手をやり、隠す。
嬉しいと思ってしまった。
自分の青を身につけて欲しいとも思うけれど、これはこれで、なんと言うか……素晴らしい。
そんなアウロアを見て、イリーシアも恥じらいながら口にした。
「それで……その、どうします?」
その言葉にアウロアは顔を上げた。
イリーシアの言わんとする事は分かる。
だがその前に自分の保護者面をし、我が物顔で屋敷に居座るあの親族を片付けるのが先だ。
イリーシアの決行はアウロアには感謝しかない。
それが無ければ自分は確実にファビーラと婚姻させられていた。
アウロアは記憶を無くした自分が嫌いだったが、唯一、イリーシアとの離縁を望まなかった事だけは、良しとした。
そしてこうして本来の自分を取り戻し始めれば、段々と頭も冴えてきた。
気になるのは叔父の動向。
叔父夫婦は自分が怪我をする前からあの屋敷に到着していた。結婚式への参加の為だ。
そして少しばかり早く着いてしまったと、屋敷に暫く滞在していたが、実はアウロアの爵位継承について、父に抗議していた事を知っている。
そしてイリーシアとの婚姻にも反対していた。
その頃にはもうファビーラは婚家から離縁の話を持ち出されていたようで、アウロアの他に娶ってもらえる当てが無いのだと訴えていた。
自分たちの都合ばかり押し付けようとする叔父を窘めたものの、思うところがあったのか、父はアウロアにその話を話して聞かせた。
爵位を継げばこういう身内の諍いにも立ち合い、諌めていかなければならない。
それとは別の思惑があったとは、あの時は知らなかった。
「イリーシア、すまないが……」
アウロアの様子にイリーシアは決然と頷く。
「どうぞ、この屋敷の者は好きに使って下さい。あなたの思うままに」
アウロアは思わず立ち上がり、イリーシアの隣に座り手を握った。
話し合いをする為に向かい席に座ったが、考えてみれば自分たちは既に夫婦なのだ。こちらの距離の方が自然で……
そう思ってイリーシアの頬に手を添えたところで、応接室のドアが勢い良く開かれた。
「お母様! ずるいです! 僕にもお父様を紹介して下さい!」
ぱちくりと目を瞬かせる夫妻を尻目に、テッドはアウロアに駆け寄り、膝によじ登った。
後から慌てて乳母が止めに入ったが、アウロアは思わず声をあげて笑った。そして構わないと、イリーシアとテッドとの時間を大いに楽しんだ。
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