第3話 結婚に間違いはなく
アウロアは再びテーブルを拳で打ちつけた。
叔父たちがびくりと肩を跳ねさせる。
(記憶が無いと言うだけで……)
自分は何をやっているのかと歯噛みする。
使用人たちは、アウロアの変わり様に皆目を剥いて驚いている。
彼は常に怯えた様で、部屋に篭り切りだったのだ。
正直いないものとして、侮られた存在だった。
その彼────本来のこの屋敷の主は、今もの凄い形相で、今まで自分たちが仕えてきた主を睨みつけている。
「どうせ追い払ったんだろう。本来なら、彼女はここで伯爵夫人として私と共にいる筈だったんだ! なのに……」
(結婚……したのか……)
先程のファビーラの言葉が頭に響く。
アウロアがそんな体たらくであったなら、彼女の両親ならばそのようにしただろう。
どうして……いや、でも……
身を翻すアウロアに叔父の声が飛んできた。
「アウロア! どこへ行くんだ!」
「イリーシアに会って来ます」
アウロアは屋敷を飛び出した。
イリーシアは言った、いつまでも待つと。だから……
◇
(ここにいるのだろうか……)
アウロアは自身の思考と行動が噛み合っていない事に頭を抱えたくなった。
(イリーシアが結婚していたら、ここにいる筈が無いのに)
それに彼女の両親が、アウロアを見限ってイリーシアを別の誰かに嫁がせるのは、凄く当然の事だと思ったのだ。
(イリーシア)
屋敷の周辺をうろつき、いい加減不審者扱いされるだろうかと思い出した頃、懐かしい声が聞こえて来た。
(イリーシア?!)
「お母様、待って下さい」
だが続く言葉にアウロアは固まった。
ゆっくりと声の聞こえた方に視線を巡らす。
「大丈夫よ、テッド。お母様はここにいますよ」
庭の大きな木の下で手を振っているのは、イリーシアだ。
アウロアは息を飲んだ。
そして……彼女に向かって駆ける男児……
「……」
イリーシアの明るく癖のある金髪と同じもの……。
そして綺麗な翡翠の瞳。
見ればイリーシアの手首には、男児の瞳と同じ色の石を付けた腕輪が煌めいていた。
この国では婚姻の際、男性が女性に腕輪を贈る。
それは女性にとっては既婚者の証で、アウロアもまた、イリーシアに用意していたものだった。
自分の瞳と同じ色のそれ……
そして彼女の夫の瞳は緑の色なのだろう。
アウロアは馬の首を返し、屋敷から離れた。
「お母様どうしたの?」
「え? いいえ……知り合いに似てたような気がして……」
「え? もしかしてお父様? ねえお母様、お父様はいつ帰ってくるかなあ?」
「もう、テッドはそればかりなんだから」
息子の言葉に、イリーシアは、くすりと笑みをこぼした。
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