第4話 この気持ちに間違いもなく
アウロアは暫く馬を走らせた。
かつてこの辺りは随分散策したものだ。
だから、意識しなくとも身体は自然と馬に指示を出し、道を駆け抜けて行った。
頬を伝うものに気づく者は誰もいなかった。
「アウロア? お前アウロアじゃないか?」
急に声を掛けられたのは、疲れた馬を休ませる為に、川に降りたところだった。
その声に振り返れば、「うわっ」と言う声が返ってくる。
「お前……幽霊じゃあ無いよな?」
「そんな訳無いだろう」
アウロアとイリーシアの領地は隣接している。
更にもう一つ、隣に合わせた領地の息子が彼だった。
散々馬を駆り、随分遠くまで来てしまったという事だ。
アウロアは自嘲気味に笑う。
いっそ意識の無いまま、もっと遠くに行ってしまいたかった。
「……お前、何笑ってんの? 大丈夫か?」
「大丈夫じゃない」
「あ、なんだ。大丈夫じゃないか」
「……」
五歳年上のこの男は、ずっとアウロアのライバルだった。
何故ならイリーシアの両親は、こいつとの婚姻を望んでいたのだから。
家格も同じ子爵。年齢も釣り合う。申し分無しだった。
あの頃の鬱憤が思い出され思わず睨みつけると、フォンは口の端を引き攣らせた。
「まったく、お前は相変わらずだな。別に俺はお前が寝てる間にイリスに手出しなんてしてないぞ。だってお前は絶対に目覚ましてイリスのところに駆けつけただろうからな」
フォンはイリーシアを勝手にイリスと愛称で呼ぶ。その度アウロアはむっとしていたのだが、今日は……
はははと笑うフォンにアウロアは俯いた。
その様子を見てフォンは首を傾げる。
「なんだあ? 何かあったのか?」
「イリーシアが……結婚を……」
その言葉にフォンは、ああと答えた。
「仕方が無いだろう。あの場合は……」
そこまで言ってフォンはぎょっと身を跳ねさせた。
歯を食いしばったアウロアの両目から、止めどなく涙が溢れて来たからだ。
「え? 知らなかったのか?」
大嫌いだ。
アウロアは無神経な幼馴染を内心で詰った。
そして記憶を無くした自分と、約束を違えたイリーシアに怒りを覚えた。
(イリーシア)
「え? おい、どこに行くんだ?」
問いかけるフォンに目もくれず、さっさと馬の休憩を終わらせ、アウロアは来た道を戻った。
何をどうしたいかだなんて決めていない。
けれど……
せめて自分のこの気持ちだけは受け取って貰いたいと思ったのだ。
例えそれがただのエゴだとしても……一人傷つき、泣き寝入りするなど、アウロアの性分では無かった。
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