禁酒を解いた日

約5年ぶりくらいだろうか。久しぶりのビールを前に俺は思わず生唾を飲み込んだ。やはり禁酒を解いた日に飲むのはビールに限るな。コップの上部3分の1近くを覆いつくす泡がビールの風味を引き立ててくれていて、見た目も匂いも俺の喉を誘惑してくる。もう我慢できないと思い、さっそく口にした。


グビグビと喉に流れ込んで行くビールはやはり美味しい。……といいたいところだが。

「うえっ、なんか思ってた味と違うぞ!」

賞味期限はきちんと守ってあるし、何が起きているのだろうかと、原材料を確認して見ると、麦芽の文字がないどころか、穀物の名前も何も入っていなかった。


「そうか、もはや第3のビールですらないんだな……」

酒税法の改正により、旧来のいわゆる第3のビールにも普通のビールと同様に税がかかった結果、さらにメーカーは穀物の種類を変えた第4のビールを作り出した。だが、それにも税がかかり……、そう繰り返しているうちに穀物の入っていない、もはやビールとは全く別の飲み物が生まれてしまったようだ。


まったく世知辛い世の中になってしまったよ。5年も口をつけていなかったせいで、段階的な味の変化に気が付かなかったのだろう。そう思い、俺は再びビールとは呼べない何かに口をつける。しばらく呑み続けていればそのうちこの味にも慣れてくるのだろうということを信じて……。

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