故郷の名前

「いらっしゃいませー」

コンビニに入って来た一人のお婆さんに店員の青年は元気に挨拶をする。彼はつい先日からここで働くようになった、秘密を抱えた新人店員である。彼の秘密とは、実は宇宙人であるということ。店長には一応伝えているが、騒ぎになっても困るので2人だけの秘密にしておこうという取り決めにしていた。宇宙人であるということ以外にはごく普通の勤勉な青年であり、店長もとても気に入っていた。


「じゃあ、これ頼むわね」

青年はお婆さんがレジに持ってきた商品にバーコードリーダーを当てていく。

「お兄さん、あんまり見かけない子だけど新しい子かい?」

お婆さんに尋ねられ、青年は元気に返答する。

「そうなんですよ、先日雇ってもらったばっかりで」

「そうかいそうかい。今まで見かけなかったけど、最近この辺に引っ越してきたばっかりの子かい?」

これまで店長1人でも店を切り盛りできていたような田舎町にあるコンビニである。お婆さんはおそらく町の人の顔はある程度覚えていたのだろう。


青年は親しみやすそうな話し方をするお婆さんに思わず心を許して返答してしまう。

「はい、バ#%ミ*星の出身です」

彼はうっかり出身の星の名前を言ってしまった。店長が青ざめた顔で青年の方を見ていたので、青年は自分のしてしまったミスに気が付く。母星の名前なんて出したらマズいに決まっている。だが、幸いにもお婆さんには聞こえていなかったのか、とくに驚くこともなく話を続けた。とりあえず青年も店長もホッとしてお婆さんの話に耳を傾けた。


「そうかい、そうかい。バ#%ミ*星の出身かい。それは遠かっただろうね。ほっほっほ」

そう言ってお婆さんは商品を受け取りお店から出て行った。人間には発音できないバ#%ミ*星という星の名前をしっかりと発音しながら……。

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