さらば5月と五月病

「ねえ、あの子大丈夫なの?」

私は思わず聞いてしまった。同じ部署に1人、ゴールデンウィークが終えたくらいから明らかにぐったりしていて、調子の悪そうな若手社員の女の子がいるのだ。私も今年の4月からここの支社に転勤してきた身であり、環境に適応することへの大変さにはよくわかっている。だから、なんとなく気になってしまったのだ。


「ああ、彼女なら大丈夫ですよ」

だが、尋ねた相手の男性社員は特に気にすることもなく平然と答えた。

「でも、あれって明らかに五月病でしょ?」

「ええ、そうですね。五月病だと思います」

「ほっといていいの?」

「五月病ですから、5月が終われば治りますよ。もう少ししたら元気になりますよ」

五月病は別に5月にしかならない病気ではないと思うのだが、とどこか腑に落ちないながらも、とりあえず一旦様子を見ることにした。


しばらくして、5月が明けた。すると本当に男性社員の言う通り、5月が明けるのとほとんど同時に彼女の五月病はすっかり治ったのである。

「ほんとにぐったりしているような感じは治ったわね、でもなんか相変わらず調子は悪そうよ?」

彼女は今度は梅雨の湿気によりうねった髪型をしきりに触っては憂いの含まれたため息をついていた。やる気がなくてぐったりしているという状態は脱したみたいだが、今度はひたすら憂いているような状態が続いていた。そんな私の心配に、また男性社員が答えてくれる。

「五月病が終わって今度は六月病になったんでしょうね。また6月が終われば治りますよ」

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