展示品の境目
とある親子が最先端ロボットの展示会へと足を運んでいた。
「うわぁ、パパこれ凄いよ!」
そう言って子どもが犬を抱いて戻ってくる。
「今日はロボット関連の展示会なのに犬がなんで……?」
「違うよ、これ本物そっくりの犬のロボットなんだよ」
子どもがそういうと犬は"ワンッ"と本物と全く見分けのつかない鳴き声をあげた。
ロボットだと言われてもロボットには見えなかった。
「俺が子供の頃から犬型のロボットはあったけど、昔のはパッと見で機械だと分かるようなものだったが……。今はこんなにもリアルになってるんだな……」
父親は技術の発達に感心していた。
「見てパパ! こっちのもすっごいリアル!」
そう言って子どもは、今度はコンパニオンの格好をした女性の前に立ち指をさした。
コンパニオンロボットの前にある「展示品」と書かれた看板がなければ普通の人間だと思い込んでしまっていただろう。
「ほんとだな。これも全然ロボットには見えない……」
父親がまたもや感嘆の声をあげていると突然コンパニオンロボットが話し出した。
「私はロボットではないです!」
突然の声に子どもも父親もビックリして背筋を正した。
「す、すみません……」
父親が慌てて頭を下げると再びコンパニオンは先程と全く同じ声のトーンで音を発する。
「私はロボットではないです!」
「いや、だから本当に気分を害してしまい申し訳ございません……」
父親が必死に頭を下げ続けているとブースの奥からスーツを着た好青年風の男の人がやってきて微笑みながら話し出した。
「大丈夫です。これは『私はロボットではないです!』って話すようにプログラムされてるドッキリ用のロボットなんです」
「あ、え?…そうなんですか?…」
父親は恥ずかしそうに下を向いた。
「あまりにも精巧にできてるんで皆さん間違えるんです。まあ間違えてもらえた方が製作者側からしたら嬉しいんですけどね。」
男の人が笑った。
「いやぁ、完全に騙されましたよ。」
父親はそう言って子どもを連れてブースから去っていった。
ブースから離れた時子どもがポツリと声を出した。
「さっき説明してくれてたお兄さんの目が一瞬光ってたけどお兄さんもロボットなのかな?」
「気のせいだよ。さすがにあそこまでリアルなロボットはないよ」
父親は思いっきり笑った。
そして心の中で思う。
(あのお兄さんの目が光ったように見えたのは気のせいじゃなかったのか……)
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