そういう仕事

「うわ、雨か……」


突然降ってきた雨に青年は空を見上げる。悲しいことに彼は傘を持ってきていない。


どうしたものかと悩んでいると初老くらいの男性が「傘持っていないのかね?」と尋ねてくる。


初老の男性は身なりはあまり良くないのになぜか気品を感じる見た目をしていた。まるで意図的に汚れた衣服を着ているかのようにも青年は感じた。


しかし青年はその違和感よりもなぜか彼が背中にカゴを背負ってその中に傘を10本程入れていたことの方が気になった。


「傘無いんだったら一本上げようか?」


「いや、そんな……」


「いいからいいから」


そう言って初老の男性は背中のカゴから綺麗な色をした傘を1本青年に手渡す。


「あの、お金払いますから……」


「いいからいいから。困った時はお互い様だよ」


「すいません。ありがとうございます」


「この傘ね、レイニーミストっていうところの傘なんだよ。使い心地が良くてデザインも良いから昔から好きなんだよね」


「レイニーミストっていうところの傘なんですか。初めて知りました。ちょっと覚えておきますね」


青年は笑顔でお礼を伝えレイニーミストの傘を差してどこかへ歩いて行った。


☆☆☆☆☆☆☆


「あの、社長はどこ行ったんですか? さっき『今日は社長業は臨時休業だ!』って言って雨の中颯爽と出て行きましたけど……」


つい先月入ったばかりの若手社員が先輩社員に尋ねる。


「ああ、今日は雨だからキズ物の傘を配りに行ったんだよ」


「そんなことしてるんですか?」


新入社員はわざわざ社長業をお休みにしてまで何をしているのかと不審に思った。


「傘が無くて困っている人にうちの傘を手渡すんだよ。そこで少しレイニーミストの宣伝をして渡せば、良い思い出として渡された人の記憶に残るからね。どうせ正規の値段で売れないキズモノだから安値で宣伝ができるってわけだよ」


「すごいですね……」


都心のオシャレなビルに店を構えるレイニーミストのオフィスの中ではそんな会話が繰り広げられていた。

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