彼を振り向かせるために
「ねえ、そんなに必死に練習しなくてもいいんじゃない? えくぼなんて練習してどうにかできるもんでもないでしょ?」
「いいえ、絶対に作るわ! 変な口出ししないで頂戴!」
女性は鏡の前で必死にえくぼを作る練習をしていた。絶賛片思い中の男性の好きなタイプが「よく笑う子、とくにえくぼが可愛らしい子が好き」であると知ったのだ。
ルームシェアをしている友人のこともそっちのけで、えくぼを作る練習をする。必死にえくぼを作る練習をする様子に友人もかなり困惑していた。
「えくぼ、えくぼ……」
ぼそぼそと呟きながら、女性は必死にえくぼを作る練習をしていた。
それから数日間鏡とにらめっこを続ける女性。その必死さは少し狂気的で友人も止めようとする。
「ねえ、えくぼを作る練習よりももっと内面も磨いた方が……」
「うるさい! 私は絶対にえくぼが出る女性になって彼を振り向かせるんだから! あんたは黙ってて!」
女性は友人を怒鳴って、忠告をシャットアウトする。もはや彼女の真剣なえくぼ作りの練習を止められるものなどいないのだろう。
そんなこんなで、必死に練習した結果、ついに女性は笑った時に綺麗なえくぼを浮かべることができるようになったという。
ただ残念なことに、怒ってばかりの彼女の日常生活においては、笑うという感情表現をする機会が極めて少ないため、そのえくぼを彼に見てもらう機会は1度も訪れ無かったのだが……。
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