前のエピソード――マスクの下

「今日の先発の北本投手について一言お願いします」

インタビュアーが敗戦チームの監督である山崎に質問を投げかけていた。プロ野球チームの監督というのはどんな試合展開でもインタビューを受けなければならないから大変である。とくに今日みたいに先発投手が1回を持たず8失点KOなんてされてしまった日には。

もちろん何も答えずに報道陣に背を向けるということもできるが、報道陣も何か記事にするためのコメントが必要だろう。手ぶらで帰って上司に怒られたら災難だろうから、監督の山崎は一応どんなときでも質問にはきちんと答えることにしている。

「今日の北本は本当にいいところが何も無かった。もう一度二軍で１から鍛え直してもらう。少し魔改造をしてくるしかないね」

野球ファンの間では、投手コーチが投手のフォーム等を大きくいじるときにはネタで魔改造と言ったりもする。しかし、それをプロ野球チームの監督である山崎が言っているのはなんとも面白い光景である。とくに現役時代から真面目な性格をしていた山崎が真顔で言ったものだから、それなりに面白いネタとして、数時間の間ネットでは話題になった。当然ファンの間では冗談として扱われていた。

そしてそれから1ヶ月ほどして北本は1軍のマウンドへと帰って来た。

「ヒーローインタビュー、ヒーローインタビュー、今日のヒーローは見事に1安打完封勝利の好投を見せてくれました、北本投手です！」

観客から大きな歓声を浴びて北本は照れ臭そうな表情をしていた。物理的に魔改造されて、半分ロボットと化した北本が鉄製のアームで頭をポリポリと搔いていた。