マスクの下
このご時世である。夜道にマスク姿の人が歩いているなんて珍しいものでもなんでもない。私も今マスク姿で自宅に向かって歩いているし、向こうからも、私と同じようにマスク姿の女性が一人歩いてきている。
特に気にも留めずに歩いていると、向こうからやってきた女性に突然声をかけられた。
「ねえ、私きれい?」
夜道に突然自身の容姿のことを尋ねてくるマスク姿の女性。私の脳裏には口裂け女の都市伝説がすぐに浮かんだ。そうだとしたら、きれいと答えても、きれいでないと答えても、殺されてしまう。
ただ、普通に考えて単なる冗談である可能性が高い。だからといって無視するのも芸がないし、せっかくなのでこちらから尋ね返してみることにした。
「ねえ、それよりも私はきれい?」
こちらから同様の質問を投げかけて見ると、マスク姿の女性は一瞬ポカンとしてから、笑い出した。
「なんだ、お仲間だったのね! もう、それならそうと言ってよ! 最近、人間がみんなマスクしてるからややこしいのよね」
目元を綻ばせて「頑張ってね」と肩を叩かれた。そしてそのマスク姿の女性は去っていった。
結局のところ、マスクの下を見ることができなかった以上、あの女性が口裂け女なのか、口裂け女のふりをして驚かしている一般人なのかはわからなかった。ただ、とりあえず無事に家に帰ることができて良かった、と安堵はしている。
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