第38話 牢獄襲撃作戦6
燐風の作戦は咄嗟に思い付いたものとは思えない程によく練られたものだった。
その内容は、まず、
問題はここからだ。
燐風が地上で衛兵を掻き乱している間に水晶は、雷梅を地下牢の
火を点け回っている潘紅玉が裏門まで移動し待機して最後は裏門を焼く手筈になっているが、その間に正門付近の消火が終わり、その衛兵達が裏門の異変に気付き戻って来られると非常に厄介だ。また、燐風が囮だと気付かれて衛兵達が裏門に戻って来るのも不味い。
水晶は雷梅を先導して暗闇の中の牢獄の敷地内を走った。昼間入ったのは正門からだったので、道順が違っていたが、費煉師が囚人達と手合わせをした広場に出るとそこからは水晶の記憶と繋がり、すぐに地下牢への入口を見付けた。しかし、正門の火災にも、燐風の起こした騒ぎにも動かず、そこには2人の衛兵が直立し辺りを警戒していた。
「あそこが地下牢の入口です。……でも、見張りが動いてないですね……どうしましょう? 雷梅さん」
「決まってます。ぶっ飛ばします!」
「あ、でも殺しちゃ駄目ですよ?」
「了解しました!」
雷梅は楽しそうに微笑むと、銀色の三節棍を構え姿勢を低くして稲妻のように素早く走り出すと、衛兵の背後に音もなく立ち、三節棍を鞭のように振り回し、同時に2人の衛兵の頭を的確に打ち抜いた。衛兵は声も出せずその場に崩れ落ちた。
「凄い! まさに閃光のような三節棍! さすが、“
「す、水晶さん、もしかしてあたしの渾名、馬鹿にしてます?」
暗闇で分からないが、雷梅が顔を赤くして照れているのがその声から伝わってきた。
「馬鹿にするはずないじゃないですか。さ、行きましょう」
「むう……」と唸りながら雷梅は水晶の後に続き地下牢の入口の階段を駆け下りた。
♢
「止まって」
水晶は階段を下りたところで壁に張り付いて止まり、後続の雷梅に右手で合図した。雷梅が後ろから何事かと大きな胸を水晶の頭に押し当てて水晶の視線の先を覗き込む。
費煉師のいる独房のある部屋の前には、昼間来た時と同じ看守の男と衛兵が2人いた。看守は2人の衛兵に地上の状況を聞いているようだ。
「火事だと!? ならば、こんな所にいるのは不味いのではないか!? 早くここから逃げなければ!」
「いや、看守殿。火事は正門の方なのでここは安全です。
「な、何!? こんな時に囚人なんかを悠長に見張ってられるか! ここには費煉師しかいないんだ! あの女1人を見張る為に逃げ遅れたとなったら死んでも死にきれん! 代わりにお前達2人が見張っていろ! ほら、
看守は2人の衛兵に銀子を無理矢理押し付けると慌てて階段の方へと逃げて来た。
そして、逃げる事も隠れる事も出来ず壁越しに覗いていた水晶と鉢合わせ目が合う。
「お、お前は……昼間の……」
目を丸くして驚く看守に、水晶がとりあえず愛想笑いをすると、水晶の頭上を雷梅が飛び越えながら強烈な飛び蹴りを看守の胸に打ち込み、看守を壁に叩き付けてしまった。
「だ、誰だ!?」
2人の衛兵はさすがに雷梅に気付き槍を構える。
「水晶さん、その倒れた男、鍵束持ってるみたいなので姉貴の牢の鍵を探してください。雑魚はあたしが片付けます」
「あ、は、はい!」
雷梅は少しも逡巡する事なく、呆然としていた水晶に的確な指示を出す。
「よっしゃぁ! 血が騒ぐぜー!!」
雷梅は隠密作戦中にも関わらず興奮して大声を出した。
「お、女!? 女の賊か!?」
しかし、衛兵は雷梅の大声に動揺して1歩後退りした。
水晶はその様子を見て雷梅の勝利を確信した。そして、急いで気を失っている看守の腰に付いていた鍵束の輪っかを外した。
「オラオラ! あたしの三節棍を受けきれるか!?」
雷梅は狭い部屋の中で三節棍を振り回し威嚇する。その動きは華麗で、荒々しい雷梅の使う技とは思えない。
すると、雷梅は奇妙な掛け声を上げ、槍を向ける衛兵に臆する事なく突っ込んでいき、三節棍で2人の槍を弾き飛ばすと三節棍を鞭のように振り、1人の腹を打ち抜く。さらに続け様にもう1人の腹へ後ろ蹴りを放ち、回転して腹を押さえる衛兵の頭へ銀色の稲妻を落とした。
「殺さないように……ってのは、何かムズムズする……生きてるかな?」
倒れた2人の衛兵の前でしゃがんで雷梅はブツブツ言いながら肩を揺する。
「開きました!」
雷梅が衛兵を倒している間に、水晶は鍵束の鍵を1本ずつ試しながら費煉師の牢の鍵を見付け牢の扉を開ける事に成功していた。
「雷梅……」
牢からゆっくりと出て来た費煉師は、雷梅の姿を見ると、嬉しそうに微笑んだ。
「姉貴……! 本当に姉貴だ!」
雷梅は立ち上がると、手枷が付いたままの費煉師に駆け寄り抱き着いた。
「良かった……! 無事で、良かった、良かったよぉ……!」
「私も、貴女にまた会えて良かったわ。それより、雷梅。貴女、隠密作戦中に大声を出すとは何を考えているの?」
「わぁ、姉貴ぃ! もっと、もっと叱ってください!」
雷梅は涙を流しながら嬉しそうに騒ぐ。
費煉師は呆れたように首を傾げると水晶の目を見た。
「ありがとう。水晶ちゃん」
「い、いえ。それより、ここを無事脱出するまでは安心出来ません。まずは手枷を」
水晶は、先程の鍵束から費煉師の手枷の鍵をその場で探し出し、ようやく費煉師の両手を自由にした。
「これで武器が使える……。雷梅、衛兵の槍を取ってもらえる」
「喜んで!」
雷梅は涙を拭いながらすぐに落ちていた槍を1本拾い、両手の自由になった費煉師へと差し出した。
「それじゃあ、ここから出ましょうか」
槍を手にした費煉師は不敵に笑った。
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