第35話 牢獄襲撃作戦3
牢獄の敷地内は広々としていた。
衛兵があちこちで槍を携え敷地の内外に目を光らせている。
水晶と燐風を案内してくれているのは、後から
水晶は歩きながら地下牢への道順をしっかりと頭に叩き込んだ。
「費煉師に面会です」
案内してくれた男は地下牢がある部屋の前の椅子に腰掛けていた看守に言った。
「費煉師に?」
看守はローブのフードを被った水晶と燐風を眉間に皺を寄せて見た。
「こいつら……子供とは言え、女ではないか? ははあ、さては袖の下を貰ったな。貴様」
「ええ。女の面会人は俺達にとって良いカモですからね。この2人は費煉師の従姉妹だそうです。どの道、費煉師はここから永遠に出られないのだから、身内にくらい合わせてやってもいいでしょう」
「まあ、そうだな。勝手にしろ。ただし、短めにしろよ? 典獄に見つかったら金は持ってかれるぞ」
「分かってますよ。おい! お前ら、聞いたろ? さっさと用事を済ませろ」
案内の門番の男に急かされ、水晶と燐風は独房が並ぶ奥の部屋へと通された。
門番の男は、水晶と燐風を1つの独房の前に立たせるとまた部屋の外に戻り看守と世間話を始めた。
「どなた?」
目の前の鉄格子の中から女の声が聞こえ、水晶と燐風は同時にその中に視線をやる。
「あ、貴女が費煉師さんですか?」
水晶が問うと女はニコリと微笑んだ。
「如何にも。私は費煉師。可愛いお嬢さん達ね。でも不思議だわ。私は貴女達と会うのは初めてだと思うのだけれど、貴女達は私の事を知ってるようね?」
費煉師は、赤褐色の襦袢を1枚着ただけで、胸や太ももは際どく露出されている。下着を着けていないせいで、大きな胸の先端はその形が分かるほどに卑猥に盛り上がっているのが分かる。胸に垂れた長い黒髪がそれを隠す役割を担っているはずなのにあまり役に立っていない。手には木製の手枷が付けられている。
「私は水晶と言います。こちらは燐風さん。私達は『
横目でチラチラと門番と看守の様子を見ながら、水晶は囁いた。
「雷梅? ホント? 雷梅は元気なの?」
雷梅の名に急に生き生きとしだした費煉師を見て、水晶と燐風は顔を見合わせて頷く。
「ええ、もちろん。私と燐風は貴女の従姉妹と言う事でここに入れました。あの、ここでは詳しくは話せませんが、今回は貴女がここにいるというのを確かめに来ただけなので、また改めて伺います。その時は、
水晶の意味深な言葉に費煉師は無言で口元だけニヤリと笑った。
「おい! 時間だ! 出て行けガキ共!」
門番の男が言った。
「ありがとうね、2人とも、わざわざ来てくれて。袖の下も高くついたでしょうに」
費煉師は立ち上がり鉄格子に額を付けてその隙間から水晶と燐風を見送ってくれた。
「いいのいいの、お姉様のお顔が見られて良かったです」
「あたしも姉さんに会えて安心したよ。じゃあね。元気で」
水晶も燐風も従姉妹の設定を演じて独房の前から離れた。門番や看守に怪しまれている様子はない。
「おい! 費煉師はいるか?」
ちょうど水晶と燐風が門番の男のもとに来た時、地上からの階段を別の看守の男が1人駆け下りて来て言った。
「何だ? どうした? もちろんいるに決まってるだろ」
費煉師の牢の前にいた看守が答える。
「囚人共と費煉師を手合わせさせる事になったらしい」
「ふん、そんな話聞いてないぞ。勝手な事言って典獄に叱られるぞ」
「いや、それが囚人共が金を渡してきたらしい。もちろん典獄にも金は渡っている。お前にもな。もう上で準備が整ってるから早く連れて来いと」
言うと地上から来た看守は、費煉師の看守に
「何だ何だ、妙に羽振りがいいな。まあ、そういう事ならいいだろう。おい! 邪魔だガキ共! さっさと出て行け!」
費煉師の看守は乱暴にそばにいた水晶と燐風を突き飛ばし、すぐに費煉師の牢の鍵を開けると中から赤褐色の襦袢を着た費煉師を連れ出した。
「ほら、お前達は行くぞ。お前達の銀子分の仕事はさせてもらったからな」
門番の男は水晶と燐風の背中を押し階段の方へ無理矢理押し出した。その後を手枷を付けられたままの費煉師と看守が付いてくる。
「良かったじゃないか、費煉師。お前確か外で運動がしたいなどと言ってたからな」
看守は費煉師の黒髪を触りながらニヤニヤ気持ちの悪い笑みを浮かべて言った。
馴れ馴れしい看守に対しても費煉師は余裕の笑みを浮かべている。
地上からは男達の雄叫びが聞こえる。
水晶は地上に戻るのが少し怖くなった。
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