46.ごめん
アルフレットが推測した通り、普通なら
もし見つかっても、中身は大した価値のない書類だ。貴族なら謝罪して、子供の
だが、もう状況は変わっている。
出国者には全員、荷物を含めて、厳しい検査があるはずだ。
船の正確な時間はわからないが、夜遅くもないだろう。
「警察とか、軍には?」
あたしの問いかけに、ヴァネッサさんは、泣きながら首を横に振った。
「お嬢さまは……多分、全部をわかった上で……幸せになってね、と……私に……」
「駄目だ、ユーディット。小間使いがやったことだとしても、
「それに、そこまでおっしゃられたイルマさまが、御自分のやったことと言い張られれば、反証することもできません!」
ランベルスとリーゼが、問題を的確に整理する。
それでも、まだ足りない。全体像がつかめない。
この段階で
ここから情報の持ち出しに失敗しても、計画者が達成できる目的はなんだろう?
イステルシュタイン伯爵の
イルマ一人が罪になって、せいぜいあたし達がうろたえるくらいで、相手が得する理由はなんだろう?
「ノンナートンさまのお名前は、お嬢さまから、何度も聞いて……お願いします! 罪は必ず
「ヴァネッサさん、教えて。その婚約者の人は、どうして……」
あたしは、はやる心臓と、声を抑えた。
答えは、控え室の扉の外から入ってきた。
「直接は関係ないわ。その
ギルベルタとウルリッヒが、そっくり同じ、まっ黒い軍服を着て立っていた。
二人とも
よく見たら足元で、ジゼリエルまでがおそろいの黒い上下で、鼻息荒く木刀をかついでいた。
それにしても、また新しい名前が出てきたな。
確か、招待客名簿にあった名前だけど、かなり下の方で関係性も薄い。
あたしの顔の
「
カミルの背中を、間髪入れず、モニカさんが
いや、そこまでしなくてもさ。
「ランベルス君、ドレッセル子爵は爵位は低くても、
「問題ない。
「女も、よ」
あたしはもう一度だけ、ヴァネッサさんの目をまっすぐに見つめ返してから、立った。
やっと、必要な情報がそろった。全体像が、敵が見えた。
これで決断を間違わない。
「アルフレット」
「もちろんです」
笑ってくれた。
わかってくれた。
あたしは盛装のまま、控え室を出る。廊下に、ばあちゃんが立っていた。
「これは、なんの騒ぎですか? ユーディット」
深い紫色の盛装で、白い髪を
「ごめん、ばあちゃん」
ばあちゃんが、あたしとアルフレットのためにどれだけのことをしてくれたのか、わかってる。
この
自分の行動の意味も、ちゃんとわかってる。
それでも、ごめん。
あたしは精一杯の気持ちで、頭を下げた。ばあちゃんは、
「良いでしょう。あなた達が戻るまで、この
「え……?」
あたしが顔を上げた時、ばあちゃんはもう、しっかりと伸びた背中を見せていた。
見送るだけのあたしの肩を、右をアルフレットが、左をギルベルタが、軽く叩く。
ありがとう。
ばあちゃん、アルフレット、ギルベルタ。
ランベルスも、リーゼも、カミルも、モニカさんも、ウルリッヒも、ジゼリエルも、ヴァネッサさんもありがとう。
さあ、戦いだ。
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